新しいWindowsファミリーとなる「Windows on ARM」

図05 テスト中のWindows on ARM。開発の初期段階のため、ビルドNoも若い(公式ブログより)

以前からWindows 8はIntel/AMDプラットフォームだけでなく、ARMプロセッサのサポートを表明している。そもそもARMとは同名の会社が開発した組み込みデバイス向けに用いられている32ビットRISC CPU。コンシューマーレベルではあまり見かけないARMだが、任天堂の携帯型ゲーム機器「ゲームボーイアドバンス」が採用したARM7が有名だ。

多くのハードウェアベンダーがARMデザインのライセンス供与を受けており、今後主流になる可能性が高いタブレット型コンピューター用CPUとしての注目度も高い。そのARMプロセッサのサポートは当初から行われていたものの、その詳細は明らかにされてこなかったが、Windows 7の公式ブログでようやく公表された。

既に本誌でも報じられているとおり、ARMをサポートするWindows 7の呼称を「Windows on ARM(WOA)」とし、これまでのWindows OSファミリーとは一線を画す存在となる。Windows on ARMは通常のWindows OSと異なり一般に提供されるものではなく、特定のハードウェアとセットでリリースされるようだ。組み込み用Windows OSであるWindows Embeddedと同じ位置付けになると言えば分かりやすいだろう(図05)。

従来の発表内容と同じく、メトロスタイルアプリケーションはx86/64用と同時にWindows on ARMをサポートし、Microsoftの開発環境であるVisual Studio 11経由でWinRT(Windows Runtime)ベースのソフトウェアを開発できる。ただし、Windows on ARM向けに従来のデスクトップアプリケーションを移植するのは難しく、エミュレータの類も用意されないため、外見は似つつも中身が異なるOSととらえた方が良さそうだ。

そのため同社は、現在開発中のOffice 15(開発コード名)のWindows on ARM版を同こんする予定と述べている。省電力設計やタッチインターフェースをサポートしたOffice 15だけでなく、ファイル管理ツールである「File Explorer」やInternet Explorer 10をバンドルするあたりは、ハンドヘルド型コンピューター向けのOSだった、Windows CE(現Windows Phone)を思い出す方も少なくないだろう(図06)。

図06 Windows on ARMを説明するPrincipal Program ManegerのScott Seiber氏。動画では快適に動作するWindows on ARMを確認できる(公式ブログの動画より抜粋)

ブログの記事ではARM搭載デバイスでWindows on ARMを動作させるための詳細な説明が行われているものの、多くの読者は現行のハードウェアで動作しないWindows on ARMに興味を持ちにくいのではないだろうか。Mac OS XとiOSが似て非なるOSのように、Windows 8とWindows on ARMは、WinRTという共通の開発環境を使用しながらも、異なるデザインが必要なプラットフォームとなる。Windows 8以上にタブレット型コンピューター向けOSとなるWindows on ARMは、ちょうどスマートフォンやタブレット型コンピューター向けOSとなるiOSやAndroidのような存在を目指していることは火を見るより明らかだ。

確かにWindows on ARMの存在は興味深い。次世代のWindowsとなるWindows 8と同等のテクノロジーが組み込まれるため、エンドユーザーとしても面白いOSとなるのも理解できる。だが、OSという枠でとらえるとWindows on ARMは、Windows 8からスピンアウトした存在になるとだけに筆者の興味は冷めてしまったというのが正直な感想だ。あとはWindows 8やWindows on ARMが、近く公開されるであろうWindows Phone 8モバイル・プラットフォームとどのように連動していくのか、その点に着眼したい。

阿久津良和(Cactus