ARMベースの4コアプロセッサでは他社に先んじてリリースされたNVIDIAの「Tegra 3」だが、昨年末にはASUS Eee Pad Transformer Primeでの採用が発表され、今回のCESでは同プロセッサ搭載の初のスマートフォンも登場するなど、モバイルデバイスの話題性が高い昨今のIT業界ではホットな製品の1つだ。今回、NVIDIAのTegra製品担当者にインタビューする機会を得たので、Tegraの現状と今後について話を聞いてみた。

米NVIDIAでTegra担当製品マーケティングディレクターのMatt Wuebbling氏

2012年は3つの市場で飛躍する「Tegra 3」

米NVIDIAでTegra担当製品マーケティングディレクターのMatt Wuebbling氏によれば、今年はTegra 3にとって3つの主要マーケットでの飛躍が見込めるとNVIDIAでは考えているという。1つが、すでに冒頭でも挙げた「ASUS Eee Pad Transformer Prime」のようなタブレット市場で、クァッドコア製品ならではのパフォーマンスと省電力性を活かした製品展開が可能になるとみている。Eee Pad Transformer Primeでは、すでにAndroid 4.0 "Ice Cream Sandwich" (ICS)のアップデート提供が開始されており、当初TIのOMAP4のみで展開されていた同OSが、かなり最速のタイミングでTegra 3にも最適化されたことがトピックとして挙げられる。このタブレット市場には「クラムシェル型」の従来のノートPCのような製品も含んでおり、特に今年後半にも登場するといわれている「Windows 8」が主力ターゲットの1つになるという。

Tegra 3搭載タブレット製品の1つ「Acer Iconia Tab A510」

昨年9月にMicrosoftが米ロサンゼルスで開催したBUILDカンファレンスでも紹介されていた、Tegra 3搭載タブレットのデモ機で動作するWindows 8。6月に公開された最初のデモから特別なアップデートはないが、HD動画再生やMetroスタイルUIにおいてもスムーズに動作している様子がアピールされている

2つめがスマートフォン市場で、今回のCESでは富士通の製品が展示されたにとどまるが、より幅広い製品ラインナップや具体的な製品展開については2月にスペインのバルセロナで開催されてる「Mobile World Congress (MWC)」で詳細が発表される見込みだ。Wuebbling氏はスマートフォンでTegra 3を搭載するメリットとして、省電力性をトピックの1つとして挙げている。例えばスマートフォンの稼働時間の8割以上はバックグラウンドでメール受信等を行う、いわゆる「スリープ」状態にあり、この際の「動作はしているが、そこで要求されるパフォーマンスは極小」という処理をこなすのにTegra 3が向いているという。Tegra 3は低クロック周波数動作に特化した「5つめのコア」を備えており、他のARMベースの競合製品と比較しても低消費電力での動作が可能だという。またクァッドコアという仕組み自体、高クロック周波数のデュアルコアプロセッサと比較すると電力効率が高く、もしOSやアプリが最適化されていればより低い消費電力での動作が実現できる。これがより高度な処理が要求されがちなタブレット(PC)だけでなく、スマートフォンでもTegra 3が力を発揮できるという理由だ。

Tegra 3を初搭載したスマートフォンがCESの富士通ブースでデモストレーションされている。「Super Hi-Spec Quad Core Smartphone」のキャッチコピーで、画像効果を多数使用したゲームのプレイにおいても十分なパフォーマンスが実現できていることがアピールポイントだという

そしてNVIDIAが新たに見つけたTegraにとって3つめのフロンティアが「車載システム」市場だ。CESのNVIDIAブースではTesla社の電気自動車が展示されており、ここでTegraを採用した車載システムのデモストレーションが行われている。カーナビゲーションやエンターテイメント、車のコントロールパネルを司る部分にTegra 3が採用されているほか、運転席のメーター類が表示されるパネル部分にもTegra 2が採用されており、2つのTegraプロセッサが車に搭載されていることになる。Tegra 3がメインプロセッサとして採用された理由として、まず車載ディスプレイの大画面制御に十分なパフォーマンスを持っていること、そして電気自動車で致命的な問題となる電力消費効率の高さがポイントに挙げられるという。このあたりの背景はスマートフォンでのそれに近いといえるだろう。これまでモバイルデバイス中心にTegraのOEM展開を進めていたNVIDIAにとって、新しいパートナー企業とのビジネスを模索するうえで車載システムは潜在性の高い市場といえるかもしれない。今後は車載システムやPOS、サイネージ等での採用例が多いWindows Embeddedの市場とオーバーラップしていくのかもしれない。

タブレット(含むWindows 8 PC)、スマートフォンに次ぐTegraにとって第3の市場が車載コンピュータ。省電力性とパフォーマンスを活かして情報端末のコアとして利用するという