さて、そんなQualcomm社の基調講演は、どちらかというとスマートフォンなどのモバイル機器を応用する場面を中心にしたものだった。ゲストも多く、派手な基調講演だったが、家電業界に携帯電話ビジネスの状況を見せるにはいい機会だったかもれない。講演を行ったのは、Qualcomm社のCEO Paul Jacobs氏。Qualcommは同氏の父、Irwin Jacobs氏が創業した会社だ。

基調講演を行うPaul E. Jacobs、Qualcomm社CEO

新製品の発表はなかったが、同社の開発する低消費電力のディスプレイ「Mirasol」を中国の電子ブックリーダーが採用したなどの報告はあった。

また、スマートフォンと医療用のセンサーを組み合わせ、病院と常にオンライン接続し、持病のある人の健康状態をモニターし、状態に応じて適切な医療を提供するといった事例を紹介、この分野を推進するために「Qualcomm Tricorder X Prize」というコンテストを発表した。次世代の医療ツールに対して与えられる賞の賞金は総額1000万ドルだという。ちなみにこの賞の名前にある「Tricorder」(トライコーダー)とは、スタートレックに登場する医療や分析などにつかわれる機器の名称である。

また、同社が開発したvuforiaは、AR(Augment Reality)のプラットフォーム。デモとしてセサミストリートを題材にしたものを見せた。マイクロソフトとセサミストリートで「カブ」ったのだが、Qualcommは、ゲストにキャラクタの一人(一匹?)であるGloverを呼んだ。本物といってもマペットなので、何が本物だかわからないのだが、会場では大きな拍手が起こった。日本で言えば、「カータン」が来たようなものか。マペットを操作していた人はステージのテーブルの下にいたのだが、退場するとき、背をかがめて小走りに去ったところにプロの仕事を見たような気がする。

講演には、セサミストリートのグローバー本人(?)が登場

個人消費が中心で、不況の影響を受けやすい家電系企業は、現在リーマンショックなどからの回復を目指していることろ。今回のCESに来た感じでは、米国の景気は上向き方向にあるようで、昨年や一昨年に比較すると会場が混雑しており、来場者も多いようだ。

これに対して、携帯電話はサブスクリプションモデルであり、事業者は、家電ほど景気の影響を受けにくい。そのため、端末メーカーなどの関連企業も同様の傾向となる。携帯電話分野で多くの特許を持ち、スマートフォンや携帯電話チップセットを手がけるQualcomm社も例外ではなく、世界的にみるとまだ成長を続けている携帯電話業界の実力を見せた基調講演だった。