マウスジェスチャーを使用するピクチャーパスワード
前述のとおり、IDとパスワードによるログオンは旧態依然ながらも利便性の高いシステムである。そのため、パスワードを複雑にしてセキュリティレベルを高める手法が用いられているが、固定化された文字列が漏えいする可能性はゼロではない。このような背景のなか、Windows 8へ新たに導入されるのがピクチャーパスワードである。
同機能を使用するには任意の画像を用意し、コントロールパネルから画像に対するマウスジェスチャー操作を行う。ジェスチャーの種類はタップや線もしくは円といったものを組み合わせた3ステップの操作を二度繰り返すことで、従来のパスワードではなくジェスチャーを用いるピクチャーパスワードの設定が可能になる(図06~07)。
公式ブログの記事によると、ピクチャーパスワードに対する認識システムは画像を100セグメントに分割し、そのフィールドに描かれる始点と終点を分析。円の場合は始点と中心点座標や円の半径なども対象になるという。
同機能の実現で問題となるのが、マウスジェスチャーの精度。許容範囲を緩くするとセキュリティシステムとして意味を成さず、厳しくすれば誤認識が発生して使い勝手が悪くなってしまう。そのため、フィールドに対する正解率を元に一定範囲の柔軟な認識が行われるようだ(図08~09)。
その一方、タブレット型コンピューターで本機能を用いる場合、ホコリや手あかに代表される汚れの問題が発生する。同社はクリーニングの重要性を強調している。確かにタブレット型コンピューターであれば、パスワードを入力するよりマウスジェスチャーを用いてログオンした方が簡単だろう。
では、Windows 8をデスクトップコンピューターに導入して使用するユーザーにとっての利点はあるかと問われれば、答えは否である。スマートフォンの高機能化やタブレット型コンピューターの台頭により、デスクトップ型コンピューターおよびOSの可能性が狭まり、同社が戦略をシフトさせているのは各種報道で報じられているととおりだ。
古くはWindows XP Tablet PC Editionをリリースした同社だが、タブレット型コンピューター向けOSに限れば、後発であるiOSやAndroidの後じんを拝しているのは疑いもない事実である。この状況を改善するために市場へ投入するWindows 8は、一つのエディションでデスクトップ型やノート型コンピューターだけでなく、タブレット型コンピューターをサポートするOSとなる予定だ。
ピクチャーパスワード自体は素晴らしい機能だが、性格や用途の異なるデスクトップ/ノート型コンピューターとタブレット型コンピューター両者を満たすものではない。だからといって今後確実に主力製品になるであろうタブレット型コンピューター向けの機能もあいまいにできないため、同社は"痛しかゆし"の状態に陥っているのではないだろうか。多くのエンドユーザーがWindows XPからWindows 7へ移行したように、Windows 7からWindows 8へ乗り換えるユーザーが増えるのか。興味深いポイントだ。
阿久津良和(Cactus)
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