――今回の作品で、冨樫さんが好きなシーンはどの場面ですか?

冨樫「どれも印象深いですが、やっぱりクライマックスのアパートのシーンですね。いずみ(神楽坂恵)に向かって美津子がある言葉を言うのですが、彼女も結局、強くもなければ弱くもない、1人の人間だったんだなっていうか。妖怪じみた彼女が唯一人間らしさ、女らしさを見せるシーンだと思います」

――詳しくは言えませんが、確かにあのシーンはインパクトありました。

冨樫「とにかく野性的に演じてましたので、あまり細かいことは覚えてないんですよ。あのシーンはもちろん一回でOKということはなく、園監督をはじめとするスタッフと私たちが一丸となって何度も何度もカメラを回しました。でも、それでいて変に慣れるということもなく、そのたびに緊張感を持って演じられました。なかなか出来ない貴重な経験だったと思います」

――大学を訪ねたいずみに美津子が言った「本物のコトバはね、一つ一つ、体をもっているの」という美津子のセリフもとても印象的でした。

冨樫「セリフの意味については言っている私自身も『どういう意味だろう?』って不思議に思ってました。でも、そのおかげで逆にじっくり考えることが出来ましたね。完全に理解出来たとは言えませんし、もしかしたら答はないのかもしれませんし。ただ、セリフとして口に出す以上、私もウソは言いたくないからいろいろ考えました。少しでも美津子に近づこうと目の前の机を見て『机』『机』『机』と何回も口に出してみたり。私自身、コトバについて深く考えるきっかけにはなりました」

――今回初めてとなる園監督との仕事はいかがでしたか?

冨樫「園監督は役者の持つ素材を引き出す力を持っているので嬉しかったです。スタッフのみなさんも演技者として生きやすい"場所"を作ってくれました。私の場合、現場の誰か1人でもやる気がないとか、『あ、上っ面(の態度が)来た』みたいなのは敏感に受け取ってしまうタイプなんですが(笑)、それがまったく無く、みんなが心を開いていた現場でしたね」

――ところで話はガラッと変わりますけど、冨樫さんのブログを拝見すると、ゲームやミッフィー、カネゴン好きといった意外な一面がのぞけてとても興味深いのですが。

冨樫「ええっ!? 見たんですか? あ、ありがとうございます」

――漫画もお好きなようで、最近『ドラゴンボール』を全巻読破したそうですね。

冨樫「そうなんですよ! 読みました。『ワンピース』はとりあえず5巻まで読んだんですけど、まだあんまりストーリーに乗り切れてなくて……。プライベートの目標は今年中に『ワンピース』を読み切る、というのはいかがでしょう(笑)」

――では、最後に、役者としての抱負をお聞かせ下さい。

冨樫「今まで15年ほど、よくもこの仕事をやって来れたなと。こんな私でも支えてくれる人、見てくれている人がいるからこそ続けてこれたわけで、あきらめなくて良かったな、といつも思います。映画でも舞台でも毎回『これが最後』と思ってやっていますけど、カーテンコールでお客さんから拍手を浴びると『辞めたくない』って思ってしまう……ずっとその繰り返しですね。ただ、『冨樫真ってこうだよね』って、ひと言で片づけられるようにはなりたくない。『冨樫真』という名前を知ってもらうよりも、自分が演じた役が人の心の中に残った方が嬉しいんです。将来的にはそんな"妖怪"になりたいですね(笑)」

映画『恋の罪』が11月12日よりテアトル新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国公開。