渋谷という街を舞台に3人の女性がそれぞれたどる数奇な運命を描いた、園子温監督の映画『恋の罪』が11月12日(土)に公開される。カンヌをはじめとするさまざまな国際映画祭への出品や、先日、園監督と出演女優の神楽坂恵が結婚を発表するなど公開前から話題となっている本作だが、3人のヒロインの中でも特に強烈なキャラクターである尾沢美津子役を演じた女優・冨樫真に話を聞いた。

冨樫真(とがし まこと)
1973年6月5日生まれ。宮城県出身。AB型。主な出演映画は『犬、走る~DOG RACE~』(1998年 高崎映画祭で新人女優賞を受賞)、『御法度』(1999年)、『閉じる日』(2000年)、『マブイ旅』(2002年)。特技は日本舞踊、器械体操、モダンバレエ、ピアノ、砲丸投げ。趣味は洗濯、工作、イラスト、生きること 拡大画像を見る

――まず、一番最初に『恋の罪』の台本を読んだ感想から聞かせて下さい。

冨樫「『なんじゃこりゃ……』って思いました(笑)。あまりにも衝撃的すぎて1回読んだだけではいったい何が起こっているのか把握できなかったので、ひと呼吸置いてもう1回読み直しましたね。でも、オーディションの時には『何も怖いものはない』と決意して突っ走るだけでした」

――パンフレットには「美津子と戦いながら演じた」というコメントがありましたが、それは具体的にどういうことでしょうか?

冨樫「私自身の人生経験や、役者として持っている引き出しからどんなにいろいろなモノを出しても美津子にはなれないと分かったので、とりあえず自分が持っているものを芝居でさらけ出して『こういう感じですけど、どうですか?』と私の心の中の美津子に尋ねながら演じる日々でした。おかしな話ですけど、撮影期間中は寝る前に必ず美津子がやって来て、今日1日のダメ出しをしてくるんです。『今日はちゃんとやれたんだな』『それで良かったんだな』と。ですからなかなか眠れなかったし、それはもう厳しかったですよ、美津子は(笑)」

――昼は大学の助教授、夜は娼婦という美津子の二面性については、演じていてどう思いましたか。

冨樫「切り替えはそれほど難しいことではないというか、衣装、髪型、メイクが変わるとそれだけで自分の気持ちも変われました。それに女性なら……いや、人間ならみんな持っていると思います。他の人とは違い、その人の前だと普段の自分とは違うように振る舞ってしまうのも、ある意味で二面性ですよね。ただ、美津子の場合はそれがすごく極端なので、彼女の生き方に共感出来ると言ってしまうと語弊がありますが、分かる気はしました。そして人間、最後はカラダひとつなのかな、というか」

昼と夜でまったく別の顔を持つ美津子。冨樫は、社会的な地位がありながら、狂ったように身体を売る女を怪演している

――と、いいますと?

冨樫「最後に残るのはモノとかコトバとかではなくて、肉……というか。言葉ではなかなか伝えきれないんですけど、人間の最初と最後はそれなのかなと。かといって、この役を演じたことでものすごく人生観とかが変わったというわけではないんですよ」

――いつまでも役を引きずるタイプではないんですね。

冨樫「ええ。私の場合、一つの仕事が終わると空っぽになって、いつもの自分に戻るまで時間がかかるんです。『私、何してたんだっけ……』みたいな。美津子はベスト3に入るくらい強烈でしたけど、他の役でもわりとそうなってしまうんですよ。役と役の間が空きすぎてしまうと自分の存在価値が無くなってしまったような気がするというか、『何のために生きていたんだっけ……』みたいな感覚になるんです」

――それはかなり壮絶ですね。

冨樫「役がついている間は生きていられるかな、と。ですから、期間が空いてしまうとかなりヤバいです(笑)」……続きを読む。