敗戦後のゼロから始めた日本が、1970年、旧ソ連、米国、フランスに次ぐ世界で4番目の人工衛星打ち上げ国になるまでは、失敗の連続だった。プロジェクトを率いていたのは、東京大学・生産技術研究所の糸川英夫教授。「はやぶさ」の目的地・小惑星イトカワの名前の元になり、「日本の宇宙開発の父」とも呼ばれる人物である。彼がいなかったら、「はやぶさ」もなかったかもしれない――。
5度目の正直でやっと打ち上げた日本初の人工衛星「おおすみ」
ヒストリーチャンネルにて10月2日(日)21:00より放送される『日本宇宙開発史~挑み続けた男たち~』(再放送 10月10日(月) 15:00~16:00ほか)は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)協力のもと、今回のために制作されたオリジナル番組。ロケットの打ち上げ映像(中には貴重な失敗映像も!)をふんだんに盛り込みながら、日本の宇宙開発黎明期のドタバタぶり、もとい挑戦の歴史を綴ったドキュメンタリーとなっている。
番組の監修を担当した的川泰宣JAXA名誉教授――映画『はやぶさ/HAYABUSA』では西田敏行演じる"的場泰弘"のモデルになっている――は、"糸川教室"の最後の世代。その的川氏は糸川教授について、「大変好奇心が強く、やれないだろうと思ったことをやろうとする人でした。彼の果敢に挑戦していく気持ちが、ひとつひとつの困難を押しのけていった原動力だったと思います」と振り返る。
日本の宇宙開発は、1955年に行われた、ペンシルロケットの水平発射実験によって幕を開けた。"ロケット"とは名が付くものの、じつはこれは全長わずか30cmほどの、本当にオモチャのような小さなロケットだった。しかしここから始まって、日本初の人工衛星「おおすみ」を実現させたL-4Sロケット(全長16.5m)、そして「はやぶさ」を打ち上げた名機M-Vロケット(同30.8m)へと繋がっていく。
当時はまだ敗戦の臭いが強く残る時代。お金もない、道具もない、ノウハウもない、そんな状態からロケットを開発しようというのもムチャな話だが、やる気だけは満々の糸川教授、独創的なアイデアや工夫で、日本独自の宇宙開発の道を進んでいく。そんな彼を動かしていたのは一体何だったのか。的川氏によれば、「敗戦で失った日本の誇りや自信を取り戻したい」という動機があったのだという。
ところが宇宙を前にして、日本は大きな壁にぶち当たった。「おおすみ」を打ち上げるまでに、続けて失敗した回数は、なんと4回! プロジェクトがいつ中止になってもおかしくない中、失敗から大きな経験を得て、彼らはついに5号機で成功させる。
この番組には、元ロケット班長、元メーカー技術者など、当時を知る関係者のインタビューが収録されている。印象的だったのは、彼らが失敗談を語るときの生き生きとした表情。もちろん、失敗などしないに越したことはないだろうが、大事なのは、失敗から何を学んで、どう次に活かすかだろう。日本のH-IIAロケットは6号機の失敗以降、19号機まで13機連続で成功しており、成功率は95%近くまで向上した。しかしロケットは非常に複雑なシステムだ。1,000機以上も打ち上げているあのロシアのソユーズですら、いまだに失敗することもある。これから、100回に1回の割合でしか現れないような不具合が表面化して、失敗したっておかしくないのだ。
「失敗は許されない」――よく聞く言葉だが、そんな社会でいいのか。東日本大震災の後、日本は変わらざるを得ない。どう変わるべきか、それをこれから考えていかないといけないかもしれない。
後継機「はやぶさ2」など、JAXAの最新プロジェクトにも注目
ヒストリーチャンネルでは、9月から2カ月連続で特集『地球・宇宙探査プロジェクト』を展開しており、10月は『日本宇宙開発史~挑み続けた男たち~』のほかに、「はやぶさ」や「ハッブル宇宙望遠鏡」のドキュメンタリーなど、宇宙関連の番組が集中的に放送される。
どんな番組が放送されるのか、詳しくは特設サイトをご覧いただきたいが、サイト内にはオリジナルのコンテンツも用意されている。リレー連載「JAXAの地球・宇宙探査プロジェクト」や、吉川真「はやぶさ2」プロジェクトマネージャーへのインタビューなどは、日本の宇宙開発の最新情報を知りたい人にとって必見のコーナーだ。
特集の"プロジェクトマネージャー"的川泰宣JAXA名誉教授からのコメント
『今年東北をまわってショックだったのは、人々に科学や技術に対する不信感が広まりつつあったことです。ああいった大きな事件(福島原発)が起きると、いきなり人は不信感に陥ってしまいますが、これから日本が復興していく上では、科学や技術の力が必要だということはみんな感じていること。そのためのヒントを、この特集の中から、科学というものを軸にして是非読み取ってください。今、いろんなところで講演してアンケートをとると、圧倒的に人気があるキーワードは「絆」「命」「挑戦」「夢・ロマン」などの言葉です。どれをとってもこの特集のなかで感じていただけると思いますので、日本の持っている課題というものを心に持ちながら、番組を見続けてもらえると嬉しいです』
JAXA協力 オリジナル制作番組『日本宇宙開発史~挑み続けた男たち~』
放送日: 10月2日(日) 21:00~22:00
再放送: 10月10日(月) 15:00~16:00ほか