「打ち上げ失敗 ○百億円が無駄に」――ロケットの打ち上げが失敗するたびに、このような報道が繰り返されてきた。だが、それは本当だろうか?
人工衛星はちゃんと打ち上げられないと利用できない。そういう意味では、確かに打ち上げ失敗=お金の無駄だ。しかし、決してそれだけじゃない――10月2日(日)に歴史エンタテインメント専門のCS放送局ヒストリーチャンネルにて放映予定の『日本宇宙開発史~挑み続けた男たち~』を見た後は、きっとそう思えるようになるだろう。日本の宇宙開発の黎明期、そこには何度失敗しても諦めない技術者・研究者の姿があった。
世界に誇れる日本の技術力、その結晶が「はやぶさ」
日本の宇宙開発の「集大成」とも言えるのが、昨年6月に地球に帰還した小惑星探査機「はやぶさ」だ。小惑星の表面に着陸して、分析用のサンプルを採取、それを地球に持ち帰る(=サンプルリターン)という、あの米国ですら成し得なかったことを、わずか500kgくらいの小さな探査機でやってのけた。「はやぶさ」は国民に熱狂的に迎えられ、帰還カプセルの一般公開には各地で長蛇の列ができた。
この「はやぶさ」は、非常に独創的なプロジェクトだった。小惑星からサンプルを持ち帰るなどということは世界的にも前例がなかったために、サンプルを採取する装置、小惑星まで往復するためのイオンエンジン、小惑星に着陸するためのセンサーなど、ほとんどは日本の技術者や研究者が独自に開発して実現したものだ。もちろん、部品レベルでは外国製のものもあるが、日本の技術で作り上げたと言っていい。
「はやぶさ」がすごかったのは、トラブルに対する対処能力の異常なまでの高さ。姿勢制御装置が壊れたり、燃料漏れが発生して通信が途絶したり、最後の最後にイオンエンジンが壊れたり、通常なら「即死」レベルの事故をいくつも乗り越えてきた。危機のたびに新しい方法を編み出して解決していく姿は宇宙戦艦ヤマトの真田さんに喩えられ、宇宙ファンの間では「こんなこともあろうかと」というセリフが一世を風靡した。
本来ならノートラブルが理想なわけで、「はやぶさ」は"不本意ながらドラマチックになってしまった"のであるが、「事実は小説よりも奇なり」という言葉がこれほどピッタリくる探査機もなかった。こんな面白いストーリーをメディアが放っておくはずがない。国内外の3社が「はやぶさ」を題材に映画を製作、今年10月より順次公開が始まる。各社の作品を見比べてみるのも面白いだろう。
「はやぶさ」は今でこそ「世界で初めて小惑星サンプルリターンに成功した探査機」と胸を張って言えるが、帰還前には「世界で初めて小惑星に着陸して離陸した探査機」という、なんともスッキリしない呼び方をされることもあった。これは、米国が別の小惑星への着陸を実行した後だったからだが、これは彼らの元々のプランにはなかったもので、米国が「はやぶさ」に先を越されることを恐れ、無理矢理やったのでは…という憶測もあるほど。ともかく、日本は米国に対抗意識を持たれるほどに成長したのだ。
しかし、宇宙までの道のりは決して平坦ではなかった……続きを読む。