"健常者"側に立って改めて気付いた自分の役割

――自身の立ち位置とは?

「"元気のある人"というか……。人から見ると僕は『絶望的な状況で生まれたのに前向きにやっていてすごいですね』と思われるかもしれません。でも僕の中では、『だってそういう状況は変えられないんだから後は楽しくやっていくしかないじゃん』と。そういう分け方でいえば、今度は僕は被災していないわけですから、健常者側から障害者を見るような視点になるんです。そこで前向きにがんばっている人から感動を得たことで、自分が今までどういうふうに見られていたのか、改めて気づいたんです」

――そこで再確認した乙武さんの役割の一つが、本の中にも書かれてあった始球式だったわけですね

「そうですね。これまでは、歩く、食べる、字を書くなど、ごく当たり前のことをしただけで、『すごい』と言われることが多くて、それを潔しとしない部分がありました。でも今回は自分がボールを投げることで被災地に『がんばろう』とか『すごいな』と思ってくださる方がいるなら、本来の僕のやり方ではないけれどやるべきだなと思ったんです。そのときの動画はyoutubeでも160万回も再生されるなど反響も大きく、決心してよかったなと思いました」

――乙武さんのように"自分の役割"を見出せるといいのですが、そうでない方も多いと思います。被災地のために何かしたいけど、何もできない。日常が戻るにつれて被災地のことを忘れそうになる。そんな悩みを抱えている人にメッセージをお願いします

「毎日被災地を思いながら心を痛めるという方もいるかもしれませんが、それができないからといって自分を責める必要はありません。普段はそれぞれの生活を送りながら、ときに現地から発信される声に耳を傾けて思いを馳せること。そしてそのつど今の自分にできることはないかと考えることが、一番自然な形だと思います。日常が戻ることで社会が活発化し、そこで生まれたエネルギーが被災地に向かうことは望ましいことだと思うんです」

――本書は被災地の絶望的な状況を克明に伝えつつも、最後には前向きに希望を提示しています。タイトルが「希望」となっているところからも乙武さんの思いが伝わってきた気がしました

「今回、被災地を回ってすごく胸を締め付けられたり言葉を失う場面に出会いました。そんな中で希望を失わずにがんばる人の姿を伝えることで、被災地の方はもちろん震災に関係なく、苦しい状況でも前向きにがんばろうと思っていただくきっかけになればと思い、「希望」というタイトルにしたんです」