アドビ システムズは2011年5月20日、「Adobe Creative Suite 5.5」日本語版をリリースした。今回のCS5.5では、単なるアップグレードに留まらず、同社初となるサブスクリプションモデルでの購入に対応するなど、新たな試みを行っている。そんなCS5.5について、同社の代表取締役社長 クレイグ・ティーゲル氏に話を聞いた。
――Adobe Creative Suite 5.5は、今までにない早いサイクルでのリリースとなったわけですが、なぜこの時期にCS5.5という新製品を出すことになったのですか。
クレイグ・ティーゲル(以下、ティーゲル)「この中間リリースの目的は、CS5.5の新機能を今、ユーザーに提供したかったということです。ユーザーが今、必要としている新しい機能をすぐに提供するべきだと判断しました。『Adobe CS5』をリリースしてから、世の中では様々な変化が起こりました。特に、スマートフォンやタブレットといったマルチデバイスの利用が爆発的に増加しています。それに応じて、CS5.5の主な特徴として、マルチデバイスに対応したコンテンツのオーサリング機能を導入しています。我々は28年間、様々なツールをユーザーに提供してきました。ユーザーが今、新しい機能を必要としているのに、『Adobe CS6』のリリースまで待たせるようなことをしたくなかったのです」
――単体製品ごとのアップデートという選択肢もあったと思うのですが、あえてCS5.5というスイート製品としてリリースした理由はなんですか。
ティーゲル「異なる製品において様々な機能の拡張があったので、こういったものをすべてスイート製品に取り入れることにより、製品としての強みが増すと考えました。その一例として、CS5.5では、マルチデバイスに対応した機能強化があります。HTML5のサポート強化や、『Premiere Pro』におけるMercuryプレイバックエンジンの強化がこれに対応しています。これらの進化で、ビデオ編集や、ビデオコンテンツを様々なデバイスに向けて制作・編集できる、業界トップクラスの製品になっていると思います。Premiere Proに関しては、CS5リリース時同様、自信を持っています。パフォーマンスもより強化され、ビデオ編集市場において、強固な立ち位置にいる製品です。約1年前にAdobe Labsにて、『InDesign』向けの『Adobe Digital Publishing Solution』をリリースしましが、今回のCS5.5では、電子出版向けのツールをInDesignの中に組み込みました。これにより、ユーザーはコンテンツを紙媒体の雑誌だけでなく、iPadやAndroidなどのタブレット市場向けにも展開することが可能になりました。世界でも日本でも今、企業や出版社は紙媒体だけでなく、コンテンツをデジタル化しています。またもうひとつの要素に、様々なデバイス向けのアプリケーション開発があります。また、新たに『Adobe Photoshop SDK』を提供しています。これを用い、ユーザーはPhotoshop向けの独自のアプリケーションを開発し、それをiPad向けに展開し、さらにPhotoshopに戻して、取り込んで使うことができるのです」
――携帯電話に限定しても様々なデバイスが出ています。今回、「Photoshop Touch」アプリケーションをリリースしたというのも、将来的にはマルチデバイス上でもPhotoshopを操作するということを見据えているのでしょうか。
ティーゲル「iPadアプリを提供した理由は、現在、クリエイティブのプロフェッショナルのコミュニティにいる人たちがiPadを非常に多く使っているからです。そこで、このツールを使って色々なことができることを知ってもらい、さらにCSの製品群での開発にフィードバックしてほしいと考えています。将来、この市場では、iPadのみでなく、Androidのデバイスも利用されるようになると思います。今のアプリケーションは主にiPad向けに開発されていますが、こうした状況が変化し、Androidの様々なデバイスに向けた開発も進んでいくと考えています」
――今回のバージョンアップでは、HTML5とともにFlashにおいても様々な機能強化が図られています。
ティーゲル「アドビ システムズとして留意したことは、どのような手法を使って開発するか、クリエイター/デベロッパーが彼ら自身の意思に基づいて選択できるようにすることです。そのため、クリエイターやデベロッパーが、望むものを選択し、開発できるベストなツールを提供できるよう心掛けてきました。現在まで、Web上のビデオコンテンツのおおよそ80%はFlashベースで作られており、Flashを用いた開発も多く行われています。これからも引き続き、Flashベースの開発が可能なようにしていきたいと思っています。また、同時にHTML5での開発も行えるように支援していきます」