――新海監督はご自身でも絵を描かれますが、今回の作品では前作『秒速5センチメートル』に続いて西村貴世さんがキャラクター設定を担当なさっています。自分の絵と人の絵で、作品を作るうえでの違いはありますか?
新海監督「そこにこだわりはあまりないですね。ただ、今までの僕の作品を熱心に観ていてくださった方ほど、今回の作品を観て驚かれる要素がキャラクターだと思います。端的に言っちゃうとジブリっぽいという印象を持たれるかもしれません。ただ、意図としてはもっと昔の『世界名作劇場』なんですよ。『ペリーヌ物語』とか『赤毛のアン』とか。僕はあれが好きだったんですけど、あの頃から連綿と続いてきている日本のアニメーションの絵というのは、今ではほかが全部途切れてしまって、ジブリに結実している。つまり、あれはジブリの絵というより、日本のアニメーションのひとつのスタイルなわけですよ。そういう意味では、20年、30年と変わらない普遍的な絵であり、物語を語る入れ物としても優れているのではないかと思います。今回はそういう気持ちで、意図的に『世界名作劇場』みたいな絵にしましょうという話を西村さんとしていました」
――監督の意図として、今回のような絵柄を選択したということですね
新海監督「実際、西村さんもほかのスタッフもそうですが、作画のスタッフに関しては、ジブリでやっていた人もいるし、名作劇場をずっとやっていた人もいるので、たぶん動かしやすいし、演技させやすいというのもありますね。そういう理由で、今回のキャラクターはああいう絵なんですけど、僕自身、アニメーションはやはりキャラクターも大きな魅力だと思うのですが、それは逆に言うと、どんな絵であってもよくて、たぶんほかのキャラクターのデザインというのもありえたと思います。このスタイルの作品だったら、今回の絵がいいと思うのですが、ほかの絵であっても作品は成り立つわけですよ。ただ、アニメーションは集団制作なので、組み合わせや出会いが重要だと思いますし、それぐらい割り切って考えているところもありますね」
――今回は縁あって西村さんと仕事をして、その結果が今回の絵になったということですね
新海監督「そうですね」
――ちなみにキャスティングは監督の意向ですか?
新海監督「僕の希望が一番大きいですね。アニメーションのキャラクターは、もともと子ども向けから始まったものですから、声優的な演技があってこそのいわゆるアニメ的な絵であり、アニメ的な絵があってこその声優的な演技だと思うんですよ。でも、僕の場合、前作の『秒速5センチメートル』までは、そういうところではないところで勝負しようと思い、いわゆるアニメ的ではないアニメーションを作っていたので、声優さんではなく、俳優さんにお願いしたりしていました」
――ご自分で声をやっている作品もありましたよね
新海監督「ありましたね(笑)。リアルという意味では普通の人が普通に喋っているのもアリだと思ったので。決して普通の人は日常生活において、声優さんのようには喋らないわけですよ。なので、『秒速5センチメートル』までは、非声優の方にメインをお願いするのがいいと思っていたのですが、今回の作品はいわゆるアニメっぽいアニメにしたかった。理由はいろいろありますが、とにかくアニメっぽいアニメにするのなら、声もやっぱりアニメの声でないといけない。この2つが組み合わさって、アニメ絵に人格がやどるわけです。なので、今回は声優さんを中心にしようと最初から考えていました。特にモリサキについては、コンテのときから井上和彦さんの声かなって思いながら描いていましたし」
――井上さん以外の方はオーディションで選んだ感じですか?
新海監督「アスナとシンに関してはオーディションでいろいろな人の声を聴いて選ばせていただきました。アスナはフレッシュさを残しつつ、上手い人ということで、金元(寿子)さんが一番バランスが良かったんですよ。いつも緊張している感じがキャラクターにも合うかなと思って(笑)。でもやはり、金元さんがやってくれたことによって、アスナに内面らしきものが芽生えたと思います」
――シン役は入野自由さんが担当しています
新海監督「入野さんは、端的に言って、一番上手かったんですよ。シュンとシンは一人二役なんですけど、叫んだりするシンのほうはできる方がたくさんいたのですが、シュンはちょっと不思議な言葉を話したりするので、それを自然にさらっと聴かせられる人という点で、入野さんが一番良かった。下手するとホスト的な、柔らかい、女の子が喜ぶような言い方になってしまうところが、入野さんの演技は少し人間っぽくない感じだったので、それが決め手になりました」