身のまわりの情報管理から業務の効率性向上に至るまで、幅広い領域で多彩な用途に利用されているデータベースソフト「FileMaker」。そのユーザー層は個人から企業、官公庁に至るまで多岐に渡っている。いま、この製品をiPhone/iPadに対応させた「FileMaker Go」が俄然、脚光を浴びている。「FileMaker Go」の本質や魅力について、「ファイルメーカー選手権」の審査委員長でもある林伸夫氏と小誌編集長 上条幸一が対談を行ったので、本稿ではその内容をお伝えしよう。

マイコミジャーナル編集長 上条幸一(左)と「ファイルメーカー選手権」審査委員長 林伸夫氏

Excelで苦しんでいるユーザーは、とにかく一度FileMakerを触ってみてほしい

林伸夫氏

上条:FileMakerは長年人気を博してきたソフトですが、この製品そのものに対して、どのような印象を持っていますか。

林:Apple IIが発売された1976年頃からパソコンを使っているのですが、コンピューターらしい「情報処理」をさせるためにデータベースソフトを使っていました。当時はフィールドの文字幅は数字で指定しなければならないなど、面倒な代物でした。Macの時代になって、グラフィカルなユーザーインタフェース、つまり、マウスでフィールドの幅を調整したり、位置を自由に調整できるFileMakerが登場して、飛びつきました。集計や帳票作りにはもっぱらFileMakerを使って仕事をしてきました。何かの目的を果たすために、既存のアプリケーションを探すより、場合によってはFileMakerで作成した方が早いんです。業務処理はFileMakerに頼っていたという状態でしたね。ただ、東日本大震災で顕在化したことの1つでもありますが、"パソコン" を前提としたツールは、緊急時の場合において、十分に活用し難い面があります。停電してしまうと、真価を発揮できません。しかし、外に持ち出せるiPhoneやiPadでもFileMakerのデータベースを使えるとなれば、非常に頼りになると感じています。これを実現するのがFileMaker Goです。

上条:私はマイコミジャーナルの編集長になってから、予算管理やページビューの集計など、ほとんど毎日のように多くの計算作業を行わなくてはなりませんでした。この作業にはそれまでExcelが使用されていたのですが、大量のデータを確実に処理し、様々な形でデータを集計するには、表計算ソフトでは力不足になる面も出てきます。とくに20万件にも及ぶマイコミジャーナルの記事データを常時扱うとなると、やはり表計算ソフトでは限界がありました。当時使用していたMac版のExcelが扱える最大行数は6万5536で、そもそもデータを扱うこと自体が不可能でした。

林:Excelでも「2007」以降では100万を超えるデータ行数に対応するようになっていますが、そのような仕様の問題だけではなく、FileMakerはユーザーインタフェースの威力が大切な要素になります。ちゃんとしたテンプレートを1つ作りこんでおけば、定型業務を誰もが容易にこなせるようになります。表計算ソフトでは、定型業務を安心して任せられるとは言えませんよね。

上条:マイコミジャーナル編集部の場合、毎月数千件にも及ぶ支払処理を短期間で行わなくてはならないのですが、この作業を表計算ソフトで行っていた時は作業完了までに1週間かかっていました。しかしFileMaker導入後は、複数の担当者が同時に作業を進めることが可能になり、さらに明細の作成や送信などもすべて1つのテンプレートで処理できるようになったので、わずか3時間程度で済むようになりました。社員の負担が大幅に減るとともに、人件費の節約につながったといえます。

幅広い可能性と用途を創出できるFileMaker Go

マイコミジャーナル編集長 上条幸一

上条:FileMaker Goの注目度が高まっています。この状況をどのように見ていますか?

林:iPhoneやiPad向けのアプリは、いまや35万本以上あって、日に日に増え続けている状況ですが、それらの中から "自分の目的に合ったもの" を見つけ出すのは困難です。かといって、自分でアプリを作成しようとしても、難解なプログラミング言語に習熟している必要があるため、そう簡単にはいきません。一方、FileMaker Proを使えば、FileMaker Go用のテンプレートを10分もあれば構築でき、機能の追加などもできます。ダイナミックな情報処理の担い手であるiPadのような端末をさらに強力なツールにすることが可能になるわけです。

上条:iPhoneやiPad用のアプリケーション作成は、現実的には本職のプログラマーレベルの知識がないと難しいわけですが、FileMaker ProとFileMaker Goを使えば誰でも作れてしまうのには驚きました。

林:もちろん他にもデータベースソフトはありますが、ユーザーにとって垣根が低く、使いやすいのはFileMakerだけだと思います。

上条:それが、iPhoneやiPad向けのアプリを自由に作成できることにつながるというわけですね。

林:iPhoneやiPadは先述のように "ダイナミックな情報処理の担い手" です。その上で動く業務アプリを容易に作成できるということは非常に大きな意味を持ちます。その目的のための手段の1つとしてFileMakerやFileMaker Goがあるということにまだ気づいていない人が多いと感じています。

上条:FileMaker Goでは、具体的にどのようなことができますか。

林:コレクションの整理などは、誰もがやってみたいことではないでしょうか? たとえば、陶磁器の茶碗であれば、まず実物の写真を撮って端末に写真を取り込んでコメントを付け、リスト化するといった一連の流れは、FileMakerを利用すれば、ワンタッチで写真を貼り付け、コメントを記すことが可能です。このデータベースをiPhoneやiPadで持ち出せば、行く先々で情報を更新できます。iPad 2になれば、写真もその場で取り込めます。CDやビデオ、昔のレコード、ほしいものリスト、さらにはうまい店一覧など……自分のアイデアを盛り込んだ上で自在に活用できます。この事実をもっと多くの人に知ってもらいたいと思っています。

上条:実際にFileMaker Goは、ビジネスの現場でも活用されていると聞いています。

林:ある美容室では、顧客に「どんな髪型にしたいか」をヒアリングし、iPadの画面上で好みの髪型の写真をタッチして選んでもらうといったことを実践しています。このやりとりのデータを蓄積すれば、顧客の "カルテ" が出来上がるわけです。また、在庫管理や中古車カタログなどに、FileMaker Goをベースとしたソリューションが導入されている例もあります。「街角でアンケートを取りたい」といった時には、作りこんだテンプレートを複数台のiPadに入れておけば、現場で情報収集ができます。お客さんに直接触ってもらってもいいですね。このようにFileMaker Goは、ビジネスシーンにおける応用の可能性も広がっています。