JR・京王井の頭線吉祥寺駅から徒歩10分以上。パッと見ただけでは何のお店かわからない店構え。よく見ると、小さく店名の『わ』とのみ書かれている。こちらのお店、実はこちら、予約なしでは入れない連日満席という大人気のホルモン焼き店なのだ。店主・光山英明さんは、脱サラして2002年に同店を開業。現在は、今や直営9店、FC15店の計24店舗を展開する業界でも注目の人物である。一体光山さんはどのような経緯で独立し、成功を収めていったのであろうか。前編に引き続き、開業経緯や現状をお届けする。
※独立のきっかけや開業準備のお話をまとめた前編はこちら。
焼肉店にとってやっかいな「煙」
ホルモン焼き店はかなりの煙が出るので、貸すのを嫌がる大家さんも多い。光山さんは大家さんを安心させるため、実際に目の前でホルモンを焼いてデモンストレーションをしようと考える。「タレじゃなくて塩だし、煙も少ないだろう」とタカをくくっていたが、これが驚くほど煙が出て室内が真っ白になってしまった。こんな状況では仮に大家さんからOKが出たとしても、お客はたまったものじゃない。
これにより、排煙用ダクト導入の必要性が出てきた。ローコストの店舗づくりを考えていたため、合計100万円以上するダクト代の出費はかなりのダメージである。少しでも安く上げようと専門誌を買い込み、目星をつけた会社と直接交渉。「こんな店を作りたいんです」と熱弁をふるい、かつ「お金がないんです」と正直に値切った。そんな光山さんの姿勢に共感してくれたその会社の社長は破格の値段で販売してくれ、無事に手持ちの予算内で収まったという。
ちなみに、開業資金総額は460万円。内訳は家賃関係130万円(保障金100万円 / 礼金・前家賃など30万円) / 内外装費約200万円 / ダクト代約100万円 / その他30万円(仕入れや備品代等)となっている。資金は当初、銀行からの借り入れも考えていたが、サラリーマン時代の貯金と親からの借金でまかなった。7坪という小規模店舗ではあるが、それでもかなりの低価格である。通常は厨房機器や備品など内装業者に丸投げすることも多いが、ダクト購入の時のように、1つひとつ自分の目で確認し、地道に交渉していった成果だろう。
開業前から"お客予備軍"の心を掴む
内装工事が着々と進んでいく中、光山さんはあることを思いつく。店頭に"店長日記"を張り出し、自己紹介や店に対する想いなど書いた。「こんな焼酎あったらいいなと思うものがあったら、銘柄を書いてください」とリクエストしたときは、多くの通行人が書き込んでくれたという。広告を打たなくても、チラシをまかなくても、無料で近隣住民や通行人に店のアピールができ、さらにはマーケティングまで行えていたのだ。実際に、この日記がきっかけで来店した人も多く、現在、同店で働いているスタッフの中にも、この日記を見て常連となり、そこから店に勤めるまでになった人もいる。なんとも不思議な縁だ。
『わ』のオープンは2002年11月。当時珍しかったホルモン焼きと焼酎という組み合わせや、全品ほぼ500円で原価をかけたお値打ち感のある内容、様々な部位の肉を少量ずつ盛り合わせるといった斬新な提供方法などもあり、開業当初から大繁盛。その後は、野球部時代の仲間や常連客で店を開きたいという人たちに新たな店を任せ、24店舗まで店舗数を増やしてきた。