誤字脱字を未然に防ぐ入力支援機能の強化
図08 一度、正しく確定した入力ミスに関しては、 |
確定履歴を元に正しく変換される |
日々、何千字とコンピューターで文書を書いている筆者でも、ケアレスミスによる打鍵(だけん)ミスを避けることは難しい。ATOK 2011では新たな入力支援機能として、この打鍵ミスによる誤変換を回避する機能を強化した。たとえば「喜ぶ」と確定するには「yorokobu」と入力するが、一つめの「o」を打ちこぼして確定すると「yろこぶ」となってしまう。
しかし、ATOK 2011の入力支援機能では、一度「喜ぶ」と確定しておけば「yrokobu」と入力変換しても「喜ぶ」に正しく変換される。そのため、常に正しい確定を行っていれば、ちょっとした打鍵ミスは気付かないうちに修正されるという仕組みだ。これが二つめの改良点である(図08)。
また、近年のATOKでは入力支援機能として「い抜き」「ら抜き」といった誤用に対する指摘や修正機能が加わっているが、同機能を一歩進め、敬語の正しい使い方を提案する機能が加わっている。例えば「求めやすい」の敬語は「お求めになりやすい」であり「お求めやすい」ではない。これは「安い」「お安い」という表現からくる誤った使い方。「求める+やすい」という構成を踏まえるとわかりやすいのだが、ついつい誤用してしまうことが多い。
ATOK 2011では、このような言葉の構成を見直し、誤った敬語を使わない仕組みを実装している。複雑な尊敬語、謙譲語、丁寧語を正しく使うのは難しいため、社外文書を作成するときには、本機能が効果を発揮するだろう。これが三つめの改良点である(図09~10)。
図09 誤った表現で確定しようとすると、正しい表現が候補として現れる |
図10 こちらも同様の敬語表現に関する注意。特定の敬語表現をピックアップし注意をうながしてくる |
なお、いくら機能的に優れていても、辞書に登録する単語量が少なくては意味がない。しかし、ユーザーが細々と単語登録するのは骨の折れる作業である。そこでATOK 2011には、既存のファイルなどを対象に自動学習する「おまかせキーワードチャージャー」を追加した。操作は簡単で学習させたい文書があるファイルやフォルダーのコンテキストメニューから該当する項目を選択するだけだ(図11~12)。
図11 コンテキストメニューに追加された<ATOKで学習する>。同項目から文書学習ツールの起動が可能 |
図12 単語登録は自動的に行われる。また対象はファイル単体だけでなくフォルダーも単位で処理することも可能 |
また、同機能はクリップボードや電子メールを対象にすることもできる。ATOK文書学習ツールを起動し、タブから学習対象を選択すればよい。詳細設定ダイアログでは、辞書に登録する単語範囲も選択できるため、好みに応じた辞書強化が行えるはずだ(図13~14)。
図14 詳細設定ダイアログからは、学習範囲の学習強度などを設定できる |
ちなみに、同機能はローカルファイルに限定されておらず、RSSフィードを対象にした学習処理も設定できる。例えば自分が所属する特定業種のRSSフィードを登録すれば、専門用語を自動的に学習するため、医療や科学といった専門業種に携わる方向けには打って付けの機能である(図15~16)。
文書品質を高めたい方にお勧めしたい
このほかの新機能としては、どのような環境でも同じ入力環境を再現する「ATOK Syncアドバンス」が新たに搭載された。これは従来あるジャストシステムのオンラインストレージサービス「インターネットディスク」を利用したATOK Syncの拡張版であり、従来のユーザー辞書やお気に入り文書に加え、変換辞書の学習情報や確定履歴、環境設定情報の同期が可能になっている。
同機能を使用するにはインターネットディスクの使用量として、315円~/月の使用料金が発生する。ただし、ATOK 2011やATOK for Windows(ATOK定額制Service)、一太郎2011 創ユーザーは初回1年間は無償なため、毎年新しいATOKがリリースされることを踏まえると、実質的に無償使用可能である。
今回は試用期間も短いため同機能の利便性を述べるまでには至らないが、会社と自宅、自宅内でもデスクトップコンピューターとモバイルコンピューターといった複数のコンピューターにATOK 2011を導入するのであれば、ATOK Syncアドバンスは便利な機能となるだろう(図17)。
さて、ATOK 2010ユーザーが同2011にバージョンアップして最初に困るのが、ATOKパレットが非表示になっている点だ。(図18)。
ユーザーからの問い合わせが多いのか、ジャストシステムが事前に察していたのかわからないが、同社のオンラインサポートでは有効化に関するナレッジベースが掲載されている。筆者もこの点だけは、使い勝手が悪く感じていた。ATOK 2010の設定を元にATOKパレットを表示させて最小化してみたが、通知領域には格納されなかった。現在の入力状態(IMEのオン/オフ)を確認するため、通知領域に目をやる習慣が付いているだけに、少々厳しい仕様変更である(図19)。
それでも、前述したような操作性の向上や入力支援機能の強化は実に好ましい。筆者は本稿を執筆するにあたり、ATOK 2010からそのままバージョンアップしたが、各種辞書や辞典はそのまま利用できたため、特に大きなトラブルもなく環境移行することができた。
昨今は日本語を正しく使えない方が増えているという。誤字や誤用を回避するためには使用するユーザー自身のスキルが求められるが、IME側が誤った変換候補を並べると、日本語に精通している方でも誤った言葉を選択してしまうだろう。その点ATOK 2011は、コンピューターの操作に慣れていない方向けには操作性を向上させ、誤った単語を選択しまいがちな方には入力支援機能を強化している。文書作成が多い業種の方はもちろん、プライベートでも打鍵ミスが多い方にも使って欲しいIMEと言えるだろう。
阿久津良和(Cactus)