「ATOK 2011 for Windows」変換画面

Windows OS上で日本語入力を可能にするには、IME(Input Method Editor)というソフトウェアが必要である。現在のWindows 7はこれまで同様、Microsoft IMEというIMEが搭載されているため、ユーザーは改めて入手する必要はない。だが、ここ数バージョンにおけるMicrosoft IMEの変換効率は良いとは言えず、学習精度の低さが目立つのも現状だ。

一時代さかのぼってMS-DOS時代を思い出すと、VJEシリーズやWX、松茸といったIME(当時はFEP:Front End Processorという呼称が使われていた)が、きらびやかに登場し、そして消えていった。これらのIME群のなかでも、現代まで生き延びたのがジャストシステムのATOK。長い歴史と比例し、高い変換精度と賢い変換アルゴリズムが特徴である。ここ数バージョンは定期的に更新されており、今年も新しいATOKがリリースされた。そこで最新版となる「ATOK 2011 for Windows(以下、ATOK 2011)」の新機能や強化点を中心に、そのポテンシャルを紹介していく。

生産性を高めるために向上した操作性

前バージョンであるATOK 2010と比較するとATOK 2011では、操作性の向上や入力支援機能、校正支援機能が強化されている。一つめの操作性向上は、辞書セットをまたいで変換候補が表示される点。そもそも近年のATOKでは辞書セットというシチュエーションに合わせた辞書セットを用意し、変換効率を高めているが、それぞれ割り当てられたショートカットキーを用いる必要があった。

しかし、今回の改良により、スペースキーによる通常の変換や単漢字変換に加え、専門用語辞書や日本語英語辞書などの変換候補が表示されるため、各ショートカットキーの割り当てを覚えずとも、各辞書を活用できることになる。総じて使い勝手が向上したと言えるだろう(図01~02)。

図01 標準変換辞書セット以外にもシチュエーションに合わせた辞書セットが多数用意されている

図02 スペースキー一つで標準辞書セット以外の変換候補が現れるようになった。一見するだけでも、日本語英語辞書やフェイスマーク辞書の候補が見受けられる

図03 適当な形容詞を入力変換し、[0]キーを押すと……

変換効率の向上でもう一つ取り上げたいのが、連想変換に関する操作性の向上。具体的には変換候補表示中に[0]キーを押すことで、変換候補リストが推測候補や連想変換候補に切り替わるというものだ。加えてファンクションキーやショートカットキーを用いて変換していた片仮名や英字といった候補も同時に選択できる(図03~04)。

図04 推測変換に切り替わり、文例が表示された。続けて[0]キーを押せば片仮名・英字候補とトグル式に切り替えられる

ATOKを使い続けているユーザーなら周知のとおり、同IMEを使いこなすにはショートカットキーの多用が大前提だった。筆者もこの原稿を書きながら[Ctrl]キーを押しながら入力内容を変更しているが、ATOK 2011はこれらのショートカットキーを覚えなくとも、用意された膨大な辞書や目立つことはないが便利な機能を使えるようになる。

推測変換も機能強化されており、過去に確定した文字列や辞書に登録されているフレーズを元に、最初の数文字を入力することで自動的に変換候補に現れるようになった。これは一般的なアプリケーションが搭載している補完機能に近く、レポートや報告書など特定の文書を記述する際に効果を発揮するだろう(図05)。

図05 推測変換候補は過去に確定した文字や辞書のフレーズを元に表示される

このほかにも変換モードを自動的に切り替える「スマートモードチェンジ」機能も紹介しておこう。従来のATOKには、公式文書の記述だけでなくチャットなどで用いる口語といった変換パターンの切り替えを提唱してきたが、ATOK 2011では入力確定した内容に合わせて、これらを自動的に切り替えるようになった。従来はユーザーが意識して操作しなくてはならない部分がATOK 2011では自動化し、より効率性の高い文書入力が可能になっている(図06~07)。

図06 入力確定した内容に応じて、複合語変換・人名優先モードや連文節変換モードといった自動切り替えが行われる

図07 表現モード詳細設定ダイアログが新たに加わり、使用する方言や文語調の取捨選択が行える