Appleは今年の夏にMac OS X Lionをリリースする予定だ。そこでMacworld 2011では、Lionの姿を予想するカンファレンスセッションと、Macの将来について議論するパネルセッションが行われた。Lionはまだ開発者向けプログラムが始まっていないし、Appleは発表前の製品についてほとんど語らない。予想しようにも情報が極めて少ない中、TidBITS発行人のAdam Engst氏やDaring FireballのJohn Gruber氏がナビゲータとなって、会場のMacファンを交えた熱い議論を引き出した。

TidBITS発行人のAdam Engst氏

昨年10月のスペシャルイベントでAppleは、Mac OS X Lionに関して以下のような一部機能を公開した

  • Mac App Store:Macアプリケーションの配信・販売/インストール/アップデートを自動化するオンラインストア

  • Launchpad:iOSのホーム画面のようなアプリケーション・ラウンチャー

  • フルスクリーンアプリケーション:iOSアプリのようにアプリケーションをフルスクリーン表示

  • Mission Control:Expose、Spaces、Dashboard、フルスクリーンアプリケーションなどを一画面でコントロールできるツール

Mac OS X Lion、そして今後のMacを語る上でキーワードになるのがイベントのテーマでもあった「Back to the Mac」だ。急成長を果たしたiOSのメリットをMacに取り込む。これによりMac OS XがiOSに、MacがiOSデバイスに近づくことになる。MacBook AirのLate 2010モデルは、その露払いだったと言える。

問題は、クローズドなiOSとパソコンOSであるMac OS Xの本質的な違いをAppleがどのように埋めるかだ。Gruber氏はまず、ひと足早くSnow Leopard向けに提供が始まったMac App Storeを例に挙げた。同ストアから入手したアプリケーションは、Snow LeopardではDockに現れるが、Dockでは置けるアプリケーションの数に限りがある。だから、アプリケーション全体を俯瞰できるLaunchpadがLionで提供されるのだろう。Mac App Storeを通じてアプリケーションの入手・インストール・アップデートがシームレスなプロセスになり、iOSのホーム画面のようなLaunchpadを通じてユーザーはアプリケーションにアクセスする。まさにiOSの利用体験がMacにもたらされる。

iOSのホーム画面のようにMacアプリケーションを俯瞰・起動できるLaunchpad

しかし、このiOSのメリットはクローズドな環境だから成り立っている面がある。例えばiOSのホーム画面でアプリを削除すると、アプリそのものとデータが自動的にデバイスから消去される。シンプルかつ確実だ。一方、Snow LeopardでMac App Storeから入手したアプリケーションをDockから削除しても、エイリアスを消したに過ぎない。iOS同様にキレイにアプリケーションを削除したければ、Finderを開くことになる。表面上iOSのようなシンプルさを実現していても、時にFinderが必要ならば、逆にユーザーを混乱させる可能性がある。ほかにもフルスクリーンアプリケーションによって、同じアプリケーションの同じ作業に対して異なるインターフェイスが存在することになる。アプリケーションによって、デフォルトの表示モードが異なったりすると、とまどうユーザーが出てくるかもしれない。

iPhoneやiPadが当たり前という若い世代はLaunchpadだけでアプリケーションを管理し、1画面に1アプリケーションのフルスクリーン・モードを好むかもしれない。だがベテランのMacユーザーはFinderが不可欠と考え、そしてフルスクリーンに対しては「全てが大きすぎて、iOSで"2×モード"を使っているような気分になる」とEngst氏。一般的なユーザーにとって使いやすいパソコンにMacが進化することにパネラー全員異論はなかったものの、「Back to the Mac」のやり方を誤れば、従来のMacユーザーを落胆させる。パソコンの柔軟性を重視するユーザーを、いかに納得させるかが課題になる。

パネルセッションではMac OS Xで「シンプルモード」と「パワーモード」が選択できるようになるのではないかという意見に同意する声が多かった。シンプルモードではFinderを使えず、ユーザーはiOSのようなシンプルな環境でMacを操作する。パワーモードではこれまで通りFinderにアクセスでき、ユーザーが自由にアプリケーションやデータを配置できる。昔からのMacユーザー向けモードと言える。

Lionでいきなりシンプルモードがデフォルトになる可能性は低いだろうが、いずれはパワーモードがオプションになると見る。というのも、パネラーの多くが以前はPower MacこそMacだと信じ、拡張性に乏しいiMacをシンプルモードのように一笑していた。ところが今ではiMacを愛用し、1人はMac miniがメインマシンである。車に喩えれば、ドライブするのにスポーツカーやトラックは必要ないということだ。一般道ならファミリーカーの方が快適にドライブでき、今ではその乗りやすさに誰もが惹かれている。さらに将来ハイブリッドカーに乗り換えそうな予感を覚えているのだ。