続いて登壇したのは、毎日新聞社の糟谷雅章。デジタルメディア局次長を務め、読む写真誌〈photoJ.〉を立ち上げた。

Guest 02 糟谷雅章(毎日新聞)

毎日新聞デジタルメディア局次長。読む写真誌〈photoJ.〉というデジタルマガジンを運営。わずか2日という短期間でプロトタイプを作成し、iPadの国内発売日である5月28日にあわせてリリース。普通のデジタル雑誌とは一線を画す試みを継続中


「我々は、さまざまな記事を取材・編集し、それらを整理・レイアウトしたものをパッケージ商品として提供してきました。けれども近年は、情報のあり方が劇的に変化した。とりわけネット上では、パッケージ総体ではなく、ひとつひとつの記事が単体で読まれている。かつて音楽業界では、LPやCDのようなパッケージングされた商品が流通していましたが、現在はiTunesのようなプラットフォームで、気に入った楽曲を一曲ずつ単体で買えるようになった。新聞をめぐる状況もそうなりつつあるのかもしれません」

取材・編集されたコンテンツがどのようなフローやプロセスを経て記事としてアウトプットされるのか詳しく解説が行われた

同じ日の新聞が地域・時間帯・編集者により異なることをバンクーバー冬季五輪の記事を例にとって説明

また、ユニクロやH&Mのようなファストファッション人気を参照し、受け手が自ら取捨選択し、自分なりに再構成する時代に移行したと指摘。同時に、ソーシャル化の進展によって、新聞社と読者が互いにフィードバックしあう動きも出てきている。

「そんな中、パッケージ商品は、どういうものがありうるのか。そのひとつの答えが、デジタルマガジン〈photoJ.〉です。記者たちが取材してきた膨大なソースの中から、美しい写真を軸に、80ページ前後の雑誌として構成し、iPad専用のアプリとして販売しています。2010年現在で7冊を刊行しました」

iPad専用のデジタル雑誌〈photoJ.〉。iPad発売から定期版が4冊、サッカー特別版が3冊の合計7冊を刊行

〈photoJ.〉は、わずか2日という短期間でプロトタイプを作成。iPadの国内発売日(2010年5月28日)に合わせて、創刊号をリリースするという離れ業を見せ、フットワークの軽さにも注目が集まった。

「記事は、日本語と英語、両方を併記しています。それこそデジタルの強みなのですが、簡単に表記の切り替えができるようになっている。以前から、我々の記事を、海外にもどんどん発信していきたいという思いが強かったのですが、〈photoJ.〉のような試みを通して、英語圏にも訴求できればと思っています」

〈photoJ.〉では日本語と英語の表記変更が簡単に行える