トップバッターは日本経済新聞社の山田尚郎。デジタル編成局・編成部プロデューサーとして〈日本経済新聞電子版〉などを担当している。まず日経が歩んできたデジタル化の歴史を概観。活版印刷から新聞製作システム「ANNECS」へのドラスティックな移行、そして、現行の編集組版システム「EDISON21」の構築という流れは、積極的にデジタル環境を整えてきたことを示すものであり、けっしてアナログ一辺倒ではないということを強調した。そのうえで、現在、日本経済新聞社が取り組んでいる、さまざまな事例を紹介した。

Guest 01 山田尚郎(日本経済新聞)

日本経済新聞社デジタル編成局編成部プロデューサー。現在「日本経済新聞電子版」を担当。自分だけの日経新聞〈My日経〉、携帯電話向けサービス、1週間分の朝刊・夕刊が読める〈紙面ビューアー〉など電子新聞の最前線で活動中


「紙の新聞は、長年にわたり、読者の記憶に残るような見出しのあり方やレイアウトなどを考えてきました。では、紙が“記憶に残るもの”だとすると、電子版の強みはどこにあるのか。言うまでもなく、情報収集における“効率性”です。電子版では、どうすれば効率的に情報を集めることができるのかに留意して、見出しやレイアウトを考えています」

活版印刷から現行の編集組版システムや電子版システムまで、日経新聞の製作システムの変遷を紹介

併せて、新聞社ならではの取材力の高さを打ち出し、社会の動きを立体的に把握できるような記事作りを紹介。たとえば、短期的な金利の変動を伝えるのと同時に、長期の金融政策に関する解説記事を提示。紙の新聞での「記憶」を電子版に結びつけ、さらに深く理解できる解説記事を「発見」してもらうという流れそのものをデザインしている。

紙版における見出しは、長年にわたる経験の蓄積によって現在のレイアウトに。「記憶」に残るという点が優先されている

電子版の見出しでは、紙版に比べて"情報取得効率の良いレイアウトや機能"という点が優先されている

紙版の"眺める"という特性とは異なり携帯版やスマートフォン版では"使う"という考え方があることも示唆した

「デジタル化が一気に進んだことで、よりパーソナルな志向とリンクした情報収集も可能になった。たとえば〈My日経〉というサービスでは、自分の興味や関心を反映した“自分だけの日経新聞”を読むことができる。さらに、携帯電話やスマートフォンのような携帯端末のおかげで、いつでも、どこでも、日経の情報にアクセスできるようになった。いままでは紙の新聞だけだったものが、電子化によって接点が増えたというわけです。紙の新聞と電子版は、対立するものではなく、互いに補完しあっているのです」

2010年12月調べの「日経電子版読者調査」より。新聞(紙)、電子版(PC)、電子版(iPhone・携帯)は互いに補完関係を形成しているようにも見てとれる