小さな熱帯魚店のオーナー・社本(吹越満)はある日、パワフルで人の良さそうな会社社長・村田(でんでん)と、ふとしたきっかけで知り合うが、それはすべての終わりの始まりだった…。実際に起こった事件(1993年・埼玉愛犬家殺人事件)をヒントに作られた、園子温監督の映画『冷たい熱帯魚』。昨年、第67回ヴェネチア国際映画祭をはじめとするさまざまな国際映画祭に出品され、世界から高い評価を受けた本作が公開された。言葉にするのはなかなか難しいが、この作品の魅力はすがすがしいまでの暴力と狂気。キャスト陣の怪演もさることながら、圧倒的な迫力とスピード感で狂気の世界を見事に描き切った園監督に話を聞いた。
園子温(そのしおん) |
――まず最初に、この作品の製作経緯から教えて下さい。
園「もともと『こういうモノを作りたい』という方向性はありましたが、どうしてもこの事件をモチーフにしたかったというわけではないんです。確かに印象的で記憶に残る事件ですが、それよりも自分が描きたいストーリーと重なり合うかが大事ですし、事件の印象が強すぎて、何回も止めようかと思ったこともありました」
――では、そこからどのように映画として仕上げていったのでしょうか。
園「吹越満さん演じる社本という気の弱い一人の男が犯罪に巻き込まれていく、という基本的な形が固まった時点で、初めて事件をモチーフに出来ると確信したんです。それまでまともだった男が異常な世界に巻き込まれていくことでどう変化してしていくか、この弱肉強食の社会において、30代・40代の男がいかに生きるかということをメッセージとして描きたかった。あとは個人的に二度ほど詐欺師に騙されたことがありまして(笑)、その時の体験もキャラクター作りやシナリオの参考になってます」
――映画とはいえ、実在の殺人事件をなぞらえる過程で奇妙な感覚に陥ることはありませんでしたか?
園「それは全然なかったですね。さすがに本物の死体を見たらそうでもないかもしれないけど、映画の中では意外と残酷になれるものなんですよ。僕自身、映画の中の銃撃戦や、血が飛び散るのは大好きですが、実際に見るのは大嫌いですし。映画の暴力と現実の暴力はまったく別モノ。現場は逆に和気あいあいでほのぼのとしていました。ちなみに、ヴェネチアで上映した時は爆笑に次ぐ爆笑でした。暴力って、あるボーダーを越えると"笑い"に転化するんですよね」……続きを読む