テレビの笑いとは違う「わがままな表現」とは

――さきほど「笑いは芸人として出来る」という趣旨の発言がありましたが、木村さんご自身の中で、芸人、構成作家、映画監督というお仕事を、ある程度分けて考えているのでしょうか。

木村「はっきりした区別を意識し過ぎてはいないのですが、映画や自分のワンマンライブをやるときは、お客さんもそれだけを観に来てくれるという部分で、ある種、表現としてはわがままでいいんじゃないかと思っています。その自由っぷりを楽しんで欲しい。もちろん、楽しませるための内容は熟考するんですけど、そこに『だいたいこういうことをやればいい』とか、『これはみんな好きだろう』みたいな感覚はないですね」

――映画を作る木村さんは、テレビに出ている木村さんとは、かなり表現者としての印象が違いますね。

木村「テレビでは、いつチャンネルを変えられるかわからないというのがあるので、インパクトのある事をあえて大げさに提示するという部分が僕自身も確かにあります。それは視聴者も制作側もお互いに求め合いやっている部分があると思います。そういうテレビでの表現との差はあると思います」

表現に対する評価は全て受け入れる

――テレビとは違うわがままな表現を提示するという部分で、今回の映画では手応えを感じていますか。

木村「この作品自体が、全打席ホームランというわけではないと思います。無様に三振する場面もあると思います。でも、それを見せないと駄目なんですよ。映画の2時間、観客の誰もが、共感してスクリーンに夢中になるというのはありえないと思うんです。『理解できない、共感できない』という部分も合わせて観ていただかないと、どんなものを作ったか、というのは伝えられないような気がするんです。だから、わがままで良いというのは、お客さんにも自信を持っているという意味でもあるんです。僕に触れたことのない人が、初めて僕の映画を観て『気に入らない』と感じても受け入れなければなないし、これまでの僕を見ていて、『この作品だけが気に入らない』という人もいるかもしれない。僕に興味なくても、『この作品は良い』という人もいるかもしれない。それらを全て受け入れないと、やっていられないと僕は思うんですよ」

――評価を全て受け入れるという潔い姿勢は、元々の木村さんの資質なのでしょうか。それとも、映画や自身のライブをテレビと分けているからこその発言なのでしょうか。

木村「分けてはいないですね。例えばテレビでいくら高視聴率といっても、たったの20パーセント。それでも半分以上の人が見てないわけですから、それで何の自信を持つ必要があるんだと思いますね。『視聴率20パーセント持ってるんだ、俺は』とか言うのは、凄く恥ずかしい事だと思いますね。それに捉われずに邁進するのが良いと思うんですよ。もちろん、僕も自分の出演シーンの視聴率を気にした時期もありましたが、年々そこに捉われずにやるようになってきました。舞台で500人の客前に立っても、全員は爆笑しないんです。必ず無反応の人が20人くらいはいる。それでも、『あの20人は心の中で笑ってるんだ』とか、思わないとやってられないですよ。だんだん歳をとってそうなってきました」

――今のお話を訊いていると、ノスタルジックな作品の内容だけでなく、木村さんが映画を監督するには、今の年齢くらいまで歳をとる必要があったような気がします。

木村「それは確かに思います。ただ、早過ぎたとは言わないですけど、もう少し映画撮るのが遅くても良かったとも思います。だからこれからの自分も楽しみですね。この歳くらいになって、周囲も僕が何をしても『放っといてやろう』という状況になってきてるような気がするんです。芸人、芸事に年数が必要というのは、熟成には年数が必要という事なんだと思いますね、努力する、芸を磨くための年数という意味だけではなくて。努力しても歳はとれませんからね。『結婚だ、離婚だ、今度は映画だ。でもあいつも47歳ならいいだろう』みたいな感じ(笑)」

『ワラライフ!!』演出中の木村祐一

――そんな歳を重ねた木村さんが監督したこの作品は、大人の人が観たらとにかく懐かしいというか切ないエピソードが満載です。

木村「そうですね。でも、観る側として僕はこういう映画を中学生くらいで観ていたような気がするんですよね。何にも共感するような経験がなくても、楽しく見ていた記憶があります。『グリース』とか『アメリカン・グラフィティ』とか」

――郷愁と同時に、日々の小さな幸せを描いたこの作品を、どのように楽しんで欲しいですか。

木村「この作品を観て、皆さん、もっと、いままでの自分を楽しんで、自分を好きになってほしいですね。僕は、『自分が好き』って、みんなもっと堂々と思っていいと思うんですよ。嫌いな部分も含めて自分が好きということを……。それを自分の中で思うだけでも良いし、大切な人に理解してもらってもいいし、それで少しだけ元気が出たらいいと思います」

木村祐一が語るこれからの表現とは?