豊かな人生がアイデアを生む

――今回は企画力をつけるための図解メモについてお聞きしたいのですが、そもそも面白いアイデアが浮かぶ人とはどんな人でしょうか?

企画は「あるテーマを対象に自分が持っているデータを総動員して立てる」もの。しかしここで言うデータとは消費者動向などの定量的な情報ではありません。これまで自分が蓄積してきた知識や体験のことです。

例えば「外国に在住したことがある」「友人・知人が多い」「いろいろな職業を経験している」人は、斬新な企画を生み出す可能性が高いと思います。

――豊かな人生経験が企画力の土台になるということでしょうか?

定量的な情報だけでヒット商品がつくれるなら、世の中はヒット商品だらけのはず。しかし現実はそうではありません。なぜなら「物を買う」という行為の背景には、実にさまざまな要因があるからです。

特に人は自分の欲望を満たしてくれたり、物語の主人公になったような気にさせてくれたりする商品に魅力を感じます。そして他人の欲望を知りたければ、まず自分の欲望をしっかり認識すること。

そのうえで先ほど述べた人生の経験値が高ければ、ありきたりの発想に陥らないというわけです。

ヒット商品を構成する3要素

――企画力をつけるための図解メモは、どのようなステップを踏むのでしょうか? 仮に「ファミリーレストランの新メニュー」を企画するとしましょう。外食産業は激戦区ですから、知恵を絞らなければいけません。

とはいえ企画はキーワードの組み合わせでもあります。そこで第1段階としては、「自分自身が求めていること」に焦点を当て、キーワードを列挙してみましょう。

――なるべく新メニューのヒントになるようなことを選ぶ必要がありますね

いいえ、今の時点では何も気にしないでください。意外に思うかもしれませんが、「仕事の役に立つ発想をしなくては」という気持ちが柔軟な発想を妨げることがあります。

「仕事で疲れているから癒されたい」「最近どうも古いものにひかれる」「海外旅行に行きたい」など、常日頃感じていることからどんどん枝分かれさせていくのです。

自分の欲望を認識する

次は「人間的な欲望」について。「遊びたい」「健康になりたい」「きれいになりたい」などが代表的なところでしょうか。自分が求めていることと重なってもいいので、こちらもいろいろと書いてみましょう。

人間的な欲望という共通項で考える

最後に「自分が主人公になれるような物語性」です。聞きなれない言葉かもしれませんが、これは商品を見たときに「これはまさに自分のためにある」と感じさせるポイントのことです。新たな経験をもたらしてくれたり、可能性を広げてくれたりすることも含まれます。

こうして列挙したキーワードを組み合わせれば、いろいろなコンセプトが生まれるはずです。

キーワードを組み合わせてラフな企画をつくる

―― 一見すると、とても新メニューの企画をしているとは思えませんね

それがいいのです。ヒット商品は自分が面白いと思ったものを突き詰めた先に生まれるのですから。

さてここでいくつかラフな企画が生まれました。今までは自由に発想を広げてきましたが、第2段階ではこの企画を現実的なものにするために検討していきます。

例えば「ファミレスで世界一周」なら、どの国を取り上げるのか、食材は定期的に入手できるのかといった問題が考えられます。「天下取り武将ご膳」は面白いですが、ひょっとしたらすでにあるかもしれません。こうした点を定量的データに基づいて検証するのです。

定量的データで検証する

「自由な発想」→「定量的データで検証」の順番で考えれば、既成概念を超越しつつも消費者の支持を得るために必要なポイントを押さえることができます。

図解はリーダーの必須能力!

――チームで企画を立てるときにも、図解が役に立ちますね

同僚や関係する部署と一緒に図解しても面白いと思います。

人は他人がつくった案には賛成したくないものですが、自分の意見が反映されれば協力します(笑) そのため各自のアイデアを図に書き加えていけば、合意形成もしやすくなる。図解は人間の習性に合っているのです。

ただし、さすがにすべてのアイデアを取り入れることはできません。リーダーとしてプロジェクトを引っ張っていかなければならないときもあります。そんな時は自分の図解を軸に据えて、決してぶれないこと。自分の図に当てはまらないものは断る勇気も必要です。そうすれば断片的なアイデアに振り回されることなく、自分の戦略に沿って進めることができます。

さらに、「いいタイトル」をつけると図解が生きてきます。そのためには本質をひとことで表す訓練をしておきましょう。優秀なコピーライターのように鋭い言葉で説明できれば、一目置かれる存在になれるはずです。

――リーダーになる人とは、図解できる人と言えるかもしれませんね

「図解できる=鳥瞰的な見方ができる」なのです。ところが最近は現場の問題や現象を並べる人は多くても、社会の全体像や方向性を提示する人は少ない。それが今日の日本が抱える病ではないでしょうか。

日常生活においても鳥瞰的な見方は大事です。何かに悩んでいるときは視野が狭くなっていることがほとんど。そんなときはただちに図解して、マイナス思考から抜け出しましょう。そして自分が望む人生を切り開いてほしいと思います。



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INTERVIEWER PROFILE : 早川洋平 / KIQTAS(キクタス)
元中国新聞記者。2008年に始めたネットラジオ番組「人生を変える 一冊」をきっかけに起業。 現在は、企業や教育機関、公共機関などに音声(ポッドキャスト)を活用したサービスを提供している。インタビュアーとしても精力的に活動、渡邉美樹さん、茂木健一郎さんらこれまでにインタビューした人物は1,000人を超える