――監督と共に作り上げた緑という女性を、ご自身はどのようにとらえていますか?
水原「この作品に登場する人物の中では、かなりポジティブなほうだと思います。大まかに言うと、そのポジティブさはわたし自身に似ているかも。わたし、スーパーポジティブなんですよ(笑)。ワタナベくんや直子ほどじゃないけれど、緑も彼女なりにいろんなものを抱えています。でも、いつも何かしらの"光"を見ている気がするんです。ワタナベくんがいろいろ悩んでいても、それを救い上げるぐらいの光を持った子なんだろうなって。辛いことがあっても人には見せず、ちょっとずつ『わたしを愛して!』ってワタナベくんに仕向けていく感じは、女子なら誰でも持っているものだと思うんです。そういう部分はもちろんわたしにもあります。ただ、最初は全然似ているとは思えなかったんですよ。監督からは、『きみは緑に似ている』ってずっと言われていました。今では、リアルライフの中で彼女に似てきている気がします。自分がポジティブな性格だということを明確に認識したということもあるし、彼女のように恋愛に対してドンとかまえられるようにもなりました。そういうわたしのもともとの性格を監督が見抜いていて、『今はまだ自分では気づいていないようだけど…』って思われていたみたい。ひょっとしたら、監督がわたしの"殻"を割ってくれたのかもしれません。今までは、自分が傷付かないようにいろんなものから自分を守っていた気がします。撮影が終わった時に一回り大きくなっていたのは間違いありません。『当たって砕けろ!』という強い気持ちが持てるようになりました」
――キスシーンにも体当たりで挑んでいましたが、ワタナベとのシーンには特別な思いがありますか?
水原「個人的には、ワタナベくんのように他に好きな女の子がいるって、ダメですよね(笑)。直子がいながら緑も…なんて。キスした後に緑が『好きな人いる?』って彼に聞くと、『いるよ』って言っちゃう。それが『きみのことだよ』ならもちろんうれしいけど、別の女の子ですからね。もしわたしがリアルライフでワタナベくんと出会って、そんなこと言われても無理です。許せなくないですか? 緑はまだ若いのに、大人の恋愛しちゃってますよ(笑)」
――ただ、あのシーンはこの映画の中ではまさに"光"という印象を受けますが。
水原「確かにわたしも緑を演じた中で、あの場面のセリフが一番印象に残っています。愛とは何かってワタナベくんに聞かれて、『例えば今、わたしが"ショートケーキを買ってきて"って言うでしょ…』っていあのセリフ。女の子なら『ずるい! わたしも言いたい!』って思っちゃいますよ(笑)。わたしも言いたいけど、まだ怖くて言えないですね。あんなこと言ったら相手に逃げられちゃいそうで…。わたしの恋愛は基本的に、"待ちの恋愛"です。攻めに出た時は別れが近い時かもしれない…(笑)。ただ、好きな人には、好き! って全力でアピールします。この場面の緑のセリフのように、女の子にはわがままさも必要なんでしょうね。やっぱりこのセリフはロマンチックだし、緑のキャラクターが良く出ていると思います。何よりもキュンとしちゃいますよ。ただ、初めてキスシーンを経験した場面としてはちょっと。割と"ビジネス・キス"だったかな(笑)。もちろんドキドキはしましたけど、何回も撮り直しましたしね。松山さんがドンと構えていてくださって、『今の感じは良かったよ』って言ってくださったので救われていました。…ビジネス・キスっていう言い方はちょっとダメですよね(笑)」
――松山さんのように相手がいてセリフを掛け合わせる…というのは女優ならではの仕事ですが、女優を経験して何か発見したことがあるそうですね。
水原「お芝居を経験したことで、確実にモデルの仕事にプラスになっています。例えば監督から教えられた目の使い方もその一つ。モデルの表現を一回全部潰して、真っ白に塗り替えたという感じでしょうか。大変だったけれど、今はすごく楽しいんですよ。以前は少し頭でっかちだったのかもしれません。『違う!』『わたしがやりたいのはこれじゃない!』って感じることが多かったんです。モデルってある意味ではマネキンにならなきゃいけない仕事なんです。とにかく"その画にハマるカメレオン"でなきゃいけない。それはもちろんプロとしての技術なので誇りを持っていますけれど、画にハマるためにはあまり自分を出してはいけないと思うんです。女優はそうじゃなくて、いろんなものを出さなきゃいけないですよね。同じカメラの前に立つ仕事だけど、お芝居を経験したことで考え方も変わりました。もともとモデルの仕事も全然飽きることがなくて、楽しんでいました。映画に出たことは表現の勉強になっただけじゃなくて、海外の雑誌からオファーがあったり、世界中のフォトグラファーと仕事ができるという大きなきっかけにもなったんです。女優として作品に出て、モデルとして新しい仕事に挑める。日本版ですけど『VOGUE』でも仕事ができましたからね。モデルにとって『VOGUE』に出るなんて、本当に夢のようなことなんですよ。そういう現場で女優として学んだことを生かせています。以前は、何がかっこいい、何がかわいい、何がモードか…って外見のことばかり考えていました。今は自分の内面から表現することの大切さを知っているし、それは映画だけじゃなくてちゃんと写真にも映るんだと思っています」
――仕事の幅が広がり、スタッフや共演者から学ぶことも増えたのでは?
水原「今回の映画で特に実感したのは、わたし一人の力じゃ乗りきれなかったということです。監督や松山さんの大きな心に支えられ、たくさんの味方が周りにいてくれたから最後までやり遂げられたんだと思います。わたしのことをみんなが応援してくれて、NGを出しまくっても待ってくれる。そこに愛を感じました。この現場のスタッフ、共演者とご一緒できたことは幸せでした。わたしはもともと一人でいることが好きで、家に帰ると一人で踊ったり歌ったりしています(笑)。仕事のことなんかを反省することもあります。でも、一人で考えたりするだけじゃだめなんですよね。周りに理解してくれる仲間がいてくれて、わたしのことを愛してくれるスタッフもたくさんいて、そういう人たちには自分も全力の愛で返したい。そうやってサバイブしていかなきゃいけないと思うんです」
――仕事を通じて"愛"を感じているということですが、『ノルウェイの森』のテーマも"愛"ですよね。
水原「この映画のテーマはとても難しい愛です。仕事の愛、男女の愛、家族の愛…いろんなものがあって、すべてはそれで回っている気がします。やっぱり♪~all you need is LOVE~♪なんですよ。この作品には複雑な愛を持つ人がたくさん登場して、正直、『なんでそうなっちゃうんだろう…』って理解できないこともあります。でも、今のわたしの年齢では分からなくてもいいんじゃないかな。こういうテーマって、一生かけて追い続けるからこそ魅力的な気もしますから。宇宙の謎と同じくらい深いもの。死ぬ時に分かればそれでいいと思っています」
――最後に今後の目標などを教えてください。
水原「モデルの仕事はもちろんですが、女優の仕事も頑張っていきたいと思います。『情熱大陸』というテレビ番組が放送された後、電車に乗っていたら『あっ!』って気付かれたことがあるんです。映画の公開が近付く中で、今まで以上に責任感みたいなものが芽生えてきました。モデル、女優のどちらというわけではなく、いろんな仕事をしていろんな役を演じてみたいな。SFとかもいいですね。『スター・ウォーズ』に出てくるクィーン・アミダラみたいな役も楽しいかもしれません(笑)」