2つ目のピーク、岩茸石山でお昼ごはん
出発から1時間半経過したところで、ようやく岩茸石山(標高793m)に到着。山頂からは色づいた木々が見え、次に行こうと決めていた埼玉の棒ノ折山も見える。ちょうどお昼時だったのでそれほど広くない山頂は満員状態。どうにかこうにか場所を見つけられたので、私もここでお昼休みをとることにした。
今日の献立はキムチうどんとコンビーフごはん、缶詰のホタテ。炭水化物のかたまりだが、山ではこういう食事がいい。まずは湯を沸かしてアルファ米に注ぎ、しばらく置いておく。そして、切ってジップロックに入れておいた椎茸や赤ピーマン、玉ネギ、小さなパックに入っているキムチ、水を鍋に入れて煮込んでいく。味付けはチューブに入ったコチュジャンと醤油、日本酒、そして韓国旅行の際に購入していたタシダ(牛スープの素)を使った。野菜に火が通ったらうどんを入れ、少し煮込んで完成。コンビーフは脂分が冷えてかたまっているので、フライパンで軽く炒めてごはんにトッピング。ホタテの缶詰は軽くバーナーで加熱し、七味唐辛子を振るだけでグッとおいしさが増す。
11月中旬の山は動いていないとあっという間に身体が冷える。こういうときにうれしいのが、やっぱりあったかいごはんだ。つゆを飲みながらうどんをすすっていると、どんどん身体が温まってくる。コンビーフも少し濃い目の味でごはんが進む。ホタテの缶詰も、家でこういうものを食べると「酒、持って来い! 」な状態になるのに、山だと全くお酒が欲しくならない。いやぁ、気持ちいいね。自然っていいね。
本日一番の難所で「もうダメかと思いました」
改めて「山っていいなぁ」と思う筆者であったが、岩茸石山を下ろうとした瞬間、そんな気持ちも吹っ飛んだ。またもや急な下りが現れたのだ。「あ~、急な登りも下りもいらないから、もっと低い山にして」。思わずそんな泣き言を言ってしまうが、尻滑り状態でなんとか無事に下り終えた。しかし。私は知っていたんだ。一番の難所は次の惣岳山直前にあると。
「一体どんな坂なんだろう」。木の根が張った道を登りながらドキドキしていた私の前に現れたのは、"坂"ではなく"岩"だった。
「え、行き止まりですけど? 」
ぼんやり立っていると、他の登山者が次々と追い越し、岩をよじ登っていく。それを見て、「あ、ここを行くんだ」と気がつく。皆が登り終えた後、足場を確かめつつ、ただ黙々と登っていった。しかし、ハッと気付くと、これ以上、上に行けない。その先に足をかける場所がないからだ。右を見ても左を見ても逃げる場所がない。引き返そうと振り返ると、ヒューーーーーーーーーと下で風が吹いてそうなくらいの結構な高さに自分がいると気付いた。
「無理無理無理無理」。
考え直してこのまま登ろうとするが、やはりこの先はかなり不安定で、足をかけても崩れてしまいそうな状態。立ち往生すること5分。頭の中を「滑落」という2文字がよぎった。3歩、4歩先を考えずに登ってきたからこういうことになってしまったのだ。猛省しつつ、「まだ今シーズンの上海蟹だって食べてないんだから。こんなところで落ちてたまるものか! 」と、両手、両足を駆使しながら、土まみれになってなんとか岩場を登り終えた。
下っているはずなのに"下っている感"のない道
そうして着いた惣岳山(標高756m)は、全く開けてはいないが、金網に囲まれた青謂神社奥ノ院があった。「無事に登れました。ありがとう」と感謝。お茶を飲んで休憩し、山頂を後にした。ここからは一路御嶽駅へ。それほど急な坂はないのでのんびり歩いていたが、アップダウンの繰り返しで、いくら進んでも下っている気がしない。
惣岳山から御嶽駅への所要時間は、標準だと1時間ほどなのだが、40分、50分歩いても集落が見えてこない(歩くのが遅いのもあるけれど)。「最後は御嶽駅に向かうエレベーターがあるのではないだろうか」と思うほど、「下っている感」がない。道を間違ったのかと心配をしていると、やはり現れた急な下り坂。途中からは車が走る音も聞こえてきたので、「これが最後の下り」と自分を奮い立たせて下りきった。出発から5時間30分。ようやく御嶽駅に到着した。
3つのピーク、さらにその前後には急登と急坂があり、変化に富んだ飽きさせないコースだった。岩場では半泣きになったが、やはり最後は「楽しかった」となる。私には少し難易度の高いコースだったが、その分終わった後の満足度も非常に高い。今までになく充足感ある今回の山登りだった。