ネットの危険性を認識していない保護者に対し、子供のネット利用に関する安全対策の必要性をどう理解してもらうかは重要な課題だ。特に、最近では、「ゲーム機」を介したネット利用が子供の間で広がっているにもかかわわらず、保護者がそれを知らないため、子供が危険なことに巻き込まれるケースもあるという。今回は、フィルタリングソフトを提供するデジタルアーツの担当者に、保護者はなぜその危険性に気づかないのか、インタビューした。

根強い「うちの子は別」という保護者の意識

インタビューに応じてくれたのは、デジタルアーツ 経営企画室 コンシューママーケティング担当の日名子康介氏と岩田治子氏。お二人は、小学校・中学校で、子供のネット利用とフィルタリングに関する講演会などを行っており、保護者と意見交換なども行っている、いわば、この分野の"最前線"で活動をしている。

――子供のネット利用に関する、保護者の認識の現状はいかがでしょうか?

日名子康介氏

日名子 : 啓発活動をして直接保護者と話をしていて感じていることの一つとして挙げられるのは、ネットの危険性に対して、「うちの子は大丈夫です」という保護者が多いことです。

ネットの危険性というもの自体、例えば、ネットいじめですとか、出会い系サイトですとか、そういったものに関する認知度は上がっているのですが、「それはあくまでも他人のことであって、うちの子は大丈夫」という意識があるので、危険は知っているけれども、それは身近なものではないという感覚が、まだまだ根強いのです。つまり、出会い系とかそういった危険は、特殊なお子さんに起こるケースだという意識です。

――それはなぜなんでしょうか?

日名子 : 保護者自身もネットを使っていて、自分自身がそういう危険な目に遭ってなくて、「ネットはそんな危険なものじゃない」という感覚があるんだと思うんですね。

岩田 : 特にお母さんだと、ご自身でネットを能動的にご覧になる方が男性ほど多くないので、そういう意味で、ネットに蔓延している有害な情報だったり危険なものに関しては、ニュースなどで見聞きしても、「それって特殊な人が見る特殊なサイトだよね」という意識があると思います。

日名子 : ネットは意図してなかったサイトに触れる危険があるということを、保護者でも体感している人は結構いらっしゃるんですよ。普通に買い物をしていたら、まさかのヌードが出てきた、みたいなことはあるんですけれども、ただそういうアダルトサイトとかっていうのは、大人なら多少見てもいいかというところがあったりします。

その点で、具体的にフィルタリングの話をする時も、どういったものをブロックしたいですかと言うと、アダルト系や暴力系のサイトであったりするんですが、かたやアダルト系のサイトっていうのは、ある程度見せても大丈夫というかということになるんで、本当に危険な出会い系とか児童売春系には直結しないというのが、現状としてあるかな、という感じです。

親のネットリテラシーが低いことで、被害の早期発見が遅れる傾向

――保護者が自分自身の子供に危険が及ぶ可能性を認識しないことで、どのような問題が起きるのでしょうか?

日名子 : 問題点の一つに、子供が実際に被害があった場合にも、子供から親に相談できないということが起こっています。例えば、ワンクリック詐欺による不法請求などがあった場合、親がそういったことを知らないために、被害にあった子供が「親に叱られるのではないか」と感じ、親に相談しないケースが挙げられます。

岩田治子氏

岩田 : 実際には子供がだまされた形でワンクリック詐欺に遭っても、子供の側からすると、「でも自分がボタンを押しちゃったし、悪いのは自分で、親に相談すれば、何でそんなことをしたの? と怒られるかもしれない」などと思ってしまって、両親にもその他の周りにも相談できないといった場合です。

日名子 : 親に相談できないがゆえに、具体的な対処が遅れてしまう場合もあります。講演活動をする中で先生から実際に聞いた話ですけれども、例えば、ネットの掲示板などで子供がいじめられて、結局転校せざるを得ないといったケースが多々あるようです。こういった時に、早々に対処していれば解決できる話なんですけれども、対処が遅れてしまって解決できなくなってしまうという話がよくあるそうです。

――親のネットリテラシーが高くないがゆえに、対処も遅れてしまうわけですね。

日名子 : ワンクリック詐欺による架空請求にしても、子供が金額を払ってしまったという段階までいかないと、発覚しなかったりするわけです。最近の架空請求はこうした点を突いて、子供をだますために、お小遣いでも払える額を請求する場合も多くなっているようです。親のリテラシーが高ければ、請求されても払う必要はないなどと教えることができるのですが。

岩田 : 現在30代後半~40代のお母さんに関しては、ご自身が在学、あるいは在職中に実際に触れていたOA機器がワープロどまりだった人も結構います。PCを触ったら壊れてしまうのではないかといったレベルの人もいて、PCやネットに対して、なかなか自分から積極的に入っていけないというケースも多くあります。そういう方に、一方的に「リテラシーが低いのだからもっと知りましょう」と言っても、実はそこの壁はなかなか高いものがあるのかな、と感じています。