11月12日に開催された『電子書籍・コミックサミット in 秋葉原』カンファレンスにおいて、小売・通信・メーカーという異なるバックグラウンドを持つ企業と、それを支援する経済産業省からパネリストを招き『電子書籍の有力プレイヤーが明かす最新情報と未来形』と題したシンポジウムが開催された。

シンポジウムは、新名新 角川書店常務取締役(左)がモデレーターを務め行なわれた

今後の電子書籍は「タブレット端末」で「小説・実用書」が増大か

アスキー・メディアワークス アスキー総合研究所所長 遠藤諭氏

はじめに、同シンポジウムに先立ってアスキー総研が行った電子書籍に関するアンケートの結果が、アスキー・メディアワークス アスキー総合研究所所長 遠藤諭氏より発表された。調査はアスキー総研の「MCS(メディア&コンテンツ・サーベイ)」パネルから7,500人を対象に行われた。

調査によると、電子書籍・コミックを「現在利用している」「利用するかもしれない」など、電子書籍に関心が高い人が約半数にのぼる。うち、「今後利用する」の層は比較的50~60代が多く、「利用するかもしれない」は10代と学生が多い。反対に「利用しない」と回答したのは40代・20代女性など、本・コミックそのものの消費が多くない人が中心だ。

約半数が電子書籍に関心を持っている

青が「現在利用している端末」、オレンジが「今後利用したい端末」

利用している端末については「パソコン」という回答が意外に多かったが、今後利用したい端末では「タブレット端末」が約25%にのぼった。これは、iPad単体で購入意向を調査した結果よりも高い。ジャンルについては現状ではマンガが最多だが、こちらも今後読みたいジャンルについては小説・実用書・雑誌が多いなど、これから利用が増加するに伴って拡大するハード・ソフトの傾向について、示唆を含んだ結果が紹介された。

小売事業者としてのアマゾンジャパンと電子書籍

アマゾンジャパン バイスプレジデント メディア事業部門長 渡部一文氏

続いて、小売事業から電子書籍事業に進出しているアマゾンジャパンの渡部氏が、同社のデジタル事業についての考え方を説明した。同社は「IT企業と言われますが、基本的には小売の立場で事業を考えて」いる姿勢を示したうえで、「電子書籍についても、選択肢を増やす意味での事業と位置づけている」と述べた。

事業全体として「デジタルでなくフィジカルなもの(=本・CD等)が売れてくれないと困る、というのが実情」で、アマゾンが紙の本を無くす方向にドライブをかけているとの見方を否定した。同社で行っている「製造デリバリー(コンテンツホルダーから預かったデータを本やCD/DVDなどにして配送)」はリスクの無い在庫管理という点で重要な意味を持ち、「KindleはそのOne of Themである」という。

豊富なセレクションが顧客満足度・来店者数増大につながるという考えが根底にある

Kindleは様々なデジタル事業のうちの一つという位置付け

端末については、ユーザー側に"一つのコンテンツを複数の端末で使いたい"というニーズがあることから「端末の形は我々が選ぶのではなくお客様が選ばれるべき」であり、他メーカーの端末に「アプリケーションとしてKindleが乗ることもやぶさかではない」とした。また、Kindle購入者が購入前と比較して約3.3倍の本を購入していることや、新刊に付随して既刊の売上げに貢献するケースを挙げ、電子化が単なる紙からの切り替えに留まらず「柔軟性やグローバル化によって出版社の収益改善のカギとなると考えている」と述べた。

モデレーターの新名氏からKindleの日本参入について質問されると、渡部氏はあいまいながらも「来ると思います」と回答した。

ドコモが目指す"ガラケー"の次の電子書籍コンテンツ

NTTドコモ 代表取締役副社長 辻村清行氏

現在まで日本の電子書籍を牽引しているのは携帯電話業界である。NTTドコモの辻村氏は、人口カバー率ほぼ100%と成熟期を迎えた日本の携帯電話市場における端末の変化と、それに対応するコンテンツの可能性について述べた。

同社では年間約1,500万台販売する端末のうち「2~3年後には半分がスマートフォン、タブレットになる」(辻村氏)と予想。PCや家電も含め、ユーザーが様々なスクリーンに接触する環境になる中では、回線・端末を問わず一つのIDでマルチアクセスできる利便性、それに合わせたコンテンツ変換を行う技術や課金システムが必要になる。また、検索やレコメンドなど「リアルでできないことを実現していくのが大事」だと考え、これらを支える技術面で貢献していきたいとの考えを示した。

新しい電子書籍の形を下支えする技術の提供を目指す

リアルとデジタルを融合した形での電子書籍配信を行う

同社は大日本印刷との提携事業で携帯端末向け電子書籍サービスに参入する。出版業界3~4兆円のうち2割程度が電子コンテンツに移行すると予想し、その10~20%のシェア獲得を目指す。現在トライアルで提供されているコンテンツから、雑誌の記事では写真から動画や地図、電話と連動するなどの事例を示し、「利用者の動線に合った雑誌の形態が工夫されていくだろう」と述べた。

いわゆる"ガラパゴスケータイ"とスマートフォンとの間で、電子書籍のすみ分けが行われるのかという質問に対し、辻村氏は「iモードではコミックを中心に出しているが、文芸書や雑誌がマルチメディアの形で増えてきた時に、それはiモード端末でなくスマートフォンや専用端末で読まれるようになってくるだろう」との見方を示した。

続いて、米国などで展開中の電子書籍サービス「Reader Store」を日本でも開始することを発表している米ソニー・エレクトロニクスから野口不二夫氏が電子書籍ビジネスにおける文化的責任などに言及した。……つづきを読む