新たなエコシステムと日本文化の継承を掲げるソニー
ソニーは9月、米国等で提供中の電子書籍リーダーを日本でも発売する意向を示している。米ソニー・エレクトロニクスの野口氏は、冒頭に上着のポケットから文庫本サイズの電子書籍端末「Reader」を取り出し、約150gという軽さや薄さを強調した。
同社は米国においてイーブックストアやGoogleと連携したパブリックドメインの本の提供、また公共図書館約6,000館の貸し出しなどのサービスを提供しているほか、12カ国で事業を展開している。各国で電子書籍の動きが高まる中、デジタルカメラを例に「デジタル技術により、新たなエコシステムへ変革」(野口氏)することの重要性を説いた。フィルムの衰退に対して撮影機会の増加やストレージサービスなど新たな方向への発展を見せたデジタルカメラは、「技術の進化をどう受け止め、どうビジネスチャンスを見出すか。デジタル化の良い例」。
また"本を読むこと"そのものに注目し、「読書は自己変革をもたらすものであり、出版によって文化が広がっていく。ここで我々が方向性をまちがうと、(文化の継承において)子孫に大きな影響がある」と、電子書籍の文化的責任にも言及。ビジネス面では「外国の技術と日本の文化を混ぜて発展させる、日本の得意分野を活かせる良いチャンス」であるとし、同社電子書籍事業の日本展開に向けた意欲を示した。
テレビや携帯電話・ゲーム機等、同社の他のプロダクトとの関連について質問されると、「クラウドによってコンテンツをあらゆるデバイスで楽しめる時代が必ず来ると思っている」との見解を述べた。
経産省「オープンなフォーマットとインフラ整備を」
経済産業省の信谷氏は、同省および総務省・文部科学省と民間企業などで構成された「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」(いわゆる三省懇談会)を通じて電子書籍ビジネスに関わっている。
同懇談会設立時には、2000年代半ばの音楽配信ビジネスを巡る議論を背景に、書籍における同様のケースに対して「プラットフォームの担い手がどんなことを展開するのか」という点への関心があった。多様な企業の参入によって将来にわたって書籍文化が守られるのかが論点であり、半年経った現在、事業を展開する各社が「その点を大事にしている」と評価する。また、特定の企業が寡占する事態への危惧から、中小出版社や印刷会社が参入しやすいオープンな環境の実現を目指し、ファイルフォーマットの標準化や国際標準化などについても議論が行われてきた。
現在、同懇談会では「日本語の表示に適し、オープンで安価なフォーマットの普及」および「新たなビジネスモデル構築に向けたインフラ整備」などの事業に取り組んでいる。信谷氏はこの事業について「デジタル書籍を巡ってどんなビジネスができていくのか、次世代に知の拡大再生産が引き継がれるような仕組みを作っていきたい」とまとめた。
これに対し新名氏が、フランスにおいて国を挙げた支援によって企業連携による電子コミックの配信サービスが設立され、同市場の95%を占めるなど大きな実績を上げていることを例に挙げ、経産省における将来にわたる支援策への考えをたずねると、「国内でもそうした議論はあったが、そうではない仕組みができ、受け入れられ始めている。民間に追い越されて、いま後ろで見ているのが現状」(信谷氏)。出遅れを認めた上で、「やれることがあるなら、いろいろな手を使ってやろうと思う」(同)との姿勢を明らかにした。
最後に新名氏は「海外・国内から様々な業界が電子書籍ビジネスへ参入しつつあり、来年の今頃はまったく違う様相をみせている可能性がある。この激動期に置いてある方向性を示していただいた」と述べ、今回のシンポジウムを締めくくった。