では、先日10月8日に行われた相場塾の模様をご紹介しよう。今回のテーマは、『相場技法抜粋―相場技術論の核心―』(林輝太郎著)の12ページ、「抜粋4 スクーター・ダンプカーの原則」だ。

100万円の資金で売買したらうまくいったので、資金を1000万円して売買単位も10倍にしたら、利益は10倍になるのかということだ。実際には、そうはいかない。それどころか必ず失敗するという意味なのだ。

投資を始める時に、私達はいきなり全財産を投入したりはしない。どの程度のリスクがあるのか分からないので、少額の資金を入れ、利益が出せるという確信が得られたら、資金を増やしていこうと考える。それはいいことなのだが、資金を増やしたら、売買単位も同じ割合で増やしてしまいがちだ。スクーターの運転を覚えただけで、ダンプカーを運転したら、必ず事故を起こす。これを「スクーター・ダンプカーの原則」というそうだ。

「資金を倍にしたら、うまくいかないのはなぜ?」

相場塾は、まず「相場技法抜粋」の朗読から始まる。そして、塾長である猪首氏は、参加者に感想を求めていく。

相場塾は、まず『相場技法抜粋』の朗読から始まる

参加者A : 自分もデモトレードをしてみて、売買を繰り返していくうちに、いくら利益が出たのか、いくら損失が出たのか、次第に把握しづらくなっていく感覚はありました。もう一つ思ったのは、100万円の資金でうまくいったからといって、資金と売買単位を10倍にしても、恐怖心がまったく違うので、うまくいくとは思えないという印象をもちました。

参加者B : 今回の話は当たり前のことであり、逆に、疑問に思う人がいるのかと不思議な気持ちになりました。

塾長は、この発言を取りあげて、深堀りしていく。「当然のことではないか」と思う時は、本質から理解している場合と、表面的な理解にとどまっている場合の二通りがあるというのだ。

猪首塾長は、参加者にこう問いかけて言った。

猪首氏 : 私も資金管理は重要だと思う。でも、じゃあ、なんで資金管理をだらしなくすることがいけないことなのかということについて、明確には説明できない。そこをきちんと説明できるだろうか?

参加者C : 投資をされるお客様は、皆さん利益を出したいということは共通していると思うんです。でも、資金管理をきちんと行わないで利益を出したお客様は、利益があぶく銭になってしまい、結局無駄遣いをしてしまうという例をいくつも見てきました。やはり、今の資金を20年で何割増やしたい、そのためには、毎年どの程度の利益があればいいのか、などの計画に基づいて行うのが投資であって、その計画がなければ投機、ギャンブルになってしまうのではないでしょうか。

参加者D : 私も、デモトレードをしたときに、最初うまくいったので、資金を倍にしたら、失敗してしまいました。

猪首氏 : 理屈では、資金を倍にしたって、同じやり方をすればうまくいくはずなのに、なぜかうまくいかない。それはなぜなんだろうか?

猪首塾長は、参加者が発言するごとに、その発言を深堀りして問いかけていった

参加者D : 資金を倍にすれば、2倍の利益が期待できますけど、リスクも2倍になります。それで怖くなってしまって、早く利益確定をしてしまったり、早く損切りをしてしまい、以前と同じやり方ができなくなってしまうんではないでしょうか。

資金を一定にしなければならない"理由"とは?

参加者C : 人には"資金の器"というものがあるような気がします。まだ100万円の器でしかない人が1,000万円の資金を運用すると、やり方に狂いがでてきてしまう。例えば、「5万円で利益確定、2万円で損切り」というルールの人が、資金を10倍にしたら、「利益確定50万円、損切り20万円」にすべきなのですが、以前の利益幅である5万円を超えたところで利益確定をしたくなってしまう。また、以前の損切り幅である2万円を超えたところで怖くなって損切りをしたくなってしまう。金額を見ることで、やり方が狂っていってしまう。

理想的な資金管理は、資金を一定にして一定期間は動かさないことだ。プロや上手な人は、みなそうしている。… (中略)一時的に資金を増やしていたりしたら、運用ではない単なるお遊びの売り買いになってしまう。(『相場技法抜粋―相場技術論の核心―』(林輝太郎著))

資金を一定にする理由は、常に利益と損失が一目で分かるようにしておくためだ。100万円の資金を入れて、現在の残高が120万円であれば利益20%、現在の残高が75万円なら損失25%とすぐにわかる。ノートに記入して、すぐに分かるようにしておけばいいじゃないかと思う人もいるかもしれないが、「分かるようにしておく」ではだめで、いつも分かっていないとだめなのだ。

ここでオブザーバーとして参加していた取締役が意見を言った。

取締役 : 「投資は上達していくもの」という前提に立てば、常に自分が今どのレベルにあるのかを知る"物差し"が必要だと思う。ひとつひとつの取引で利益が出たときは、自分は「天才トレーダー」であるかのように思い、損失を出したら「相場のせい」にするのでは、いつまでたっても上達しない。自分が今、トータルでどのくらいの利益を出しているのか、損失を出しているのか。それを知ることで、自分のレベルがわかる。その物差しがなければ、上達のベースになるものがないと思うのです。投資というのは遊びではなく、仕事です。企業が今、いくら利益を出していて、いくら損失を出しているのか、よく分からないままに経営している経営者はいませんよね。

参加者D : 自分が今どのレベルにあるのか知るのは、正直とても難しいです。投資家の中には、自分のレベルを知る前に、いつの間にか資金がなくなって、投資を続けられなくなってしまうという人も多いのではないでしょうか。

一方的な講義ではなく、常に参加者の考えを確認

塾長の猪首氏は、話題を変えて、「小遣い帳」の例を挙げた。

猪首氏 : 小遣い帳って、ちゃんとつけると、自分がこんなに無駄遣いしているというのが、一目でわかるところがあるでしょ。みんなは、小遣い帳つけている?

参加者E : 無駄遣いが分かるのが、気持ち的に嫌なので、つけてません(笑)。

猪首氏 : 投資も記録をつけておくと、あんなバカなトレードをしてしまった、こんな無理をやっていたということが一目で分かる。

参加者F : 投資家の心理で面白い話を聞きました。±0円のときから始めて10円の損失を出したらものすごく心理的に痛い。でも、一度損益がマイナスになってしまうと、損失が100円に広がってもさほど痛くなくなってしまうのだそうです。それが深みにはまっていく原因になっていく。

猪首氏 : 例えば、今日、日経平均が9,500円だったとしましょう。今日買いポジションを持って、明日10円下がって、9,490円になった。これは痛い。さらに翌日90円下がって9,400円になった。これも痛い。でも、そのうちのどっちがより心理的に痛いかというと、最初の10円下がったときの方がより痛いと感じる投資家が多いのだそうです。だんだん麻痺していってしまうんだね。

オブザーバー : 塩漬けの感覚ですね。損失が大きくなっても、我慢できてしまう。

猪首氏 : 先ほど、資金量を増やすと、怖くなって早めに損切りしてしまうという話があったけど、リアルマネーの世界では、麻痺をしてきてしまって、大きな損失になっても、損失を確定せずに我慢できてしまう。世間では、資金を複利で回していくのが、あたかも正しいことであるかのように言われている。うまくいけばそれでいいのかもしれないけど、やはり厳格な資金管理を徹底するということが、幅広いお客様に利益をもたらす正攻法だと思う。だとしたら、我々ひまわり証券としては、世間がどう言おうとも、正攻法をお客様に伝えていく必要があるんじゃないだろうか。そこをぜひ各自考えてほしい。

議論を一定の紙幅にまとめさせてもらったので、やや堅苦しく議論が行われているかのように感じた読者もいるかもしれないが、実際は笑いあり、雑談ありで、雰囲気は和気あいあいとしながらも、緊張感を持っているという輪読会だ。現代ならば大学のゼミ、昔なら寺小屋といった感じだ。

やや堅苦しく議論が行われているかのように感じた読者もいるかもしれないが、実際は笑いあり、雑談ありで、雰囲気は和気あいあいとしながらも、緊張感を持っているという輪読会だ

塾長が、講義をするというのではなく、「どう思う?」「どう考える?」と参加者に尋ねていく。そして、教科書的な優等生の意見が出た場合は、塾長はそれを逃さず、深堀りをしていく。参加者は、本で学んだ知識ではなく、本音の意見を表明することが要求されるのだ。中には、見当外れだったり、間違った意見もあるのかもしれないが、それを皆で共有し考えることで、学んできた知識に血を通わせることができる場になっている。

読者の中にも、参加してみたいと思われる方もいらっしゃるのではないだろうか。相場について勉強になるということも大きいが、なにより相場について、あれこれ考えることがこんなに楽しいものだとは思わなかった。相場は「人間力」で立ち向かうものなのだから、相場について考えることは人間について考えることでもあるのだ。

この相場塾については、次回以降もできるだけお伝えしていく予定だ。次回のテーマは「複雑に考えるな」である。