鎌倉ゆかりの文学は、幅広く奥深い
同館の常設展では、「鎌倉文士たち」と「古典」「明治・大正」「昭和」の歴史を追う四部構成で所蔵資料を展示。鎌倉文士たちが太平洋戦争末期に立ち上げた貸本店「鎌倉文庫」の資料や、今年逝去した井上ひさし氏の直筆原稿などが展示されていた。年に数回入れ替えが行われているそうだ。
常設展の他、テーマを設けた特別展を年に3回、収蔵品展1回を行っている。取材に訪れた時に開催されていたのは、詩人で童話作家のくどうなおこ氏の作品を展示した「くどうなおこのいろいろ展」。夏休みを挟んだ7月から9月にかけて子ども向けに企画されており、展示のほかに講演会や子供向けのワークショップなども行われていた。普段は展示品を置かない低いところや天井、展示台の側面にもパネルを貼るなど、子供の目線を意識した演出が随所に見られた。
続いて10月2日~12月12日まで開催されているのは、昭和を代表する大作家を採り上げた「川端康成と三島由紀夫 伝統へ、世界へ」。同館開館25周年を記念した特別展となる。かつて、若い三島が鎌倉に住む川端を訪ね、以来三島が亡くなるまで二人の親交が続いたという。同展では、文壇デビュー前の三島が川端に贈った小説集や二人の書簡など、多彩な資料が展示される。
同館の目的はこうした展示だけではなく、文士や作品に関する資料を収集保存することにある。展示館の裏手には資料を収めるための収蔵庫が建てられ、約6万点の図書の他、文士たちの直筆原稿や知人・家族などとやりとりした書簡、ペンや文鎮などの愛用品などの関連資料約1万点が収められている。遺族・関係者などから寄贈された資料も多いとのこと。同館の蔵書は、来館者が館内のレファレンスルームで閲覧することができるようになっており、文学研究者などが利用しているそうだ。
研究者ではなくても、こうした関連資料などから垣間見られる作家の人間性や日常の一面によって、作品の背景やそこに込められた意図をより深く想像することで、作品をより生き生きと感じることができるだろう。
文学の秋、街をまるごと楽しめる鎌倉へ
文学都市と言われる鎌倉では市内各所で多くの文学史跡を見ることができる。この文学館の近隣でも、甘縄神明神社は川端康成の小説『山の音』の舞台となり、長谷寺には俳人・高浜虚子の句碑や文芸評論家・高山樗牛の記念碑がある。また、この文学館そのものも三島由紀夫の小説「春の雪」に出てくる別荘のモデルとなっている。文学ブーム、特に近代作家の作品が再注目されている昨今だが、文学の面白さは文字の上だけに留まらない。秋の休日は、鎌倉文学館を起点に文士達の面影濃いこの街を一日かけてゆっくり散策してみたい。
利用案内 : 鎌倉文学館
住所 | 神奈川県鎌倉市長谷1-5-3 |
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電話番号 | 0467-23-3911 |
開館時間 | 3月~9月 9:00~17:00(入館は16:30まで) 10月~2月 9:00~16:30(入館は16:00まで) |
休館日 | 月曜日(月曜日が祝日の場合は開館し、翌火曜日休館)・年末年始・展示替え期間など |
料金 | 一般: 300~400円/ 小中学生: 100~200円(※展覧会によって異なる) |
アクセス | 江ノ島電鉄「由比ヶ浜」下車徒歩約7分 |
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