2010年9月の最後の週に1週間だけであるが、ジャバルプル(Jabalpur)というインドのほぼ中央に位置する地方都市にあるインド情報技術大学(PDPM Indian Institute of Information Technology Design and Manufacturing - Jabalpur:IIITDM-J)という大学でコンピュータアーキテクチャを講義するという機会を戴いたので、その時に感じたことをお伝えしたい。
インドの科学技術教育
大学と書いたが、インドの人的資源開発省(教育を担当)がUniversity(大学)としているのは総合大学だけで、IIITのような学校はDeemed University(准大学)という扱いになっているが、それで教育の程度が劣るわけではない。その意味では、インドの科学技術教育を代表するIndian Institute of Technology(IIT)はIIT法に基づく高等教育機関であり、厳密な意味では、大学でも准大学でもない。
インドの科学技術系のいわゆる大学には、インド中央政府の予算で運営する国立大学が65校あり、今回、訪れたIIITDM-Jは、その1つである。そして、その他に各州が運営する州立大学と私立の大学があるが、やはり、国立大学が教員あたりの学生数などの点で優位で、優秀な学生が集まるという。
インドの受験生は大変である。IIT 15校はIIT Joint Entrance Examinationという統一入試を実施し、その他の国立校はAll India Engineering Entrance Examinationという統一入試をやる。そして、受験生は自分の入試成績の順位を考えて、志望校の志望学科を決めて申込みを行う。
日本では、どこを受けるかは高校や予備校のアドバイスがあるが、インドではWeb経由で公的機関が難易度などを示して、どこを志望するかの相談にのるシステムがある。そして、大学側は統一入試の順位にしたがって、上から定員までを合格とする。しかし、2010年のAIEEEの受験者は約100万人であるが、大学の定員の総数は2万6000人程度で40倍に近い競争率となっている。IITと合わせると4万人程度の合格者となるが、インドの人口は11~12億で日本の約10倍であることを考えると、日本なら4000人相当の合格者で非常に狭き門である。
IITは1950年から設立が始まった伝統ある学校であるが、このIITの成功にならって作られたのが、現在、20校設立されているNational Institute of Technology(NIT:国立工科大学)と現在5校のIndian Institute of Information Technology(IIIT:インド情報技術大学)である。
インド情報技術大学 ジャバルプル校
IIITDM-Jは2005年の設立という非常に新しい大学である。小泉純一郎氏が首相の時代にインドのマンモハン・シン首相が協力を要請し、日本は、大学の運営の助言や、今回の筆者のような講師を毎年10人あまり派遣して支援している。
インドは空港などの警備も厳重で町にも警官が多いが、大学も警備が厳重で、門には遮断機があり警備員が2~3人配置され、エントランスにも銃を持った警備員が配置されている。エントランスの写真の右側に半分写っているインドMahindra&MahindraのScorpioという車でホテルと学校を送り迎えしてくれたのであるが、この車のナンバープレートには、ナンバーの上にGovernment of Indiaと書いてあり、この車で門を出入りすると、警備員が軍隊式の敬礼をしてくれる。敬礼を受けたのは人生で初めてである。
しかし、中へ入れば自由な雰囲気で、学生やスタッフがインド人であることを除けば、日本の大学と変わらない。
今回は、パイプラインとその制御、キャッシュの方式と制御、スーパースカラとOut-of-Order実行、分岐予測について講義を行った。基本的には「コンピュータアーキテクチャの話」に連載している内容であるが、時間が限られているので、主要な点だけに絞り込んだ内容で講義を行った。インドの高等教育機関では英語が公用語で、スライドの内容や喋る言葉は英語である。
対象は、学部の3年生が25名、大学院の学生が11名という構成であった。そして、特別な集中講義であるということで、通常の教室ではなく、会議室で講義を行った。合計36名の受講生の中で女子学生は4人であった。やはり、インドでもコンピュータアーキテクチャ関係への女性の進出は少ないようである。写真にも見られるように男子学生はスポーツシャツやTシャツにズボンであるが、女子学生は民族衣装であるパンジャビが多かった。
もともと、コの字に配置された会議室の机の前に置ける椅子の数では不足で、10人程度はその後ろの椅子に座る必要があったのであるが、この写真にみられるように後ろの椅子組はプロジェクタのスクリーンに近い前側に集中して座っている。早めに来て荷物を置いて前方の席を確保するという学生もいる。日本の大学では、講師の近くの席が空いて、後ろの席から詰まるので、全く逆である。
授業態度は真剣そのもので、居眠りをしているような学生は居ないし、分からないところがあると、手を上げて活発に質問してくる。Out-of-Orderのリネームなどを2時間程度講義して、演習問題をやらせてみると、入り口でつまずいている学生も居るが、優秀な学生は、ほぼ完全に理解していた。