「自分みたいのが社長やっていいのだろうか」と葛藤も

8月下旬に育休を取得することにした青野社長。2週間の休暇のため毎晩夜遅くまで働き、「力尽きるような状態」で育休に突入。しかしそこで待っていたのは必ずしも楽しいだけの時間ではなかったようだ。

「相当ストレスがかかった2週間でした」と青野社長。休暇中はミルク、あやす、風呂、オムツ替え、離乳食などの"基本動作"を繰り返しながら、実家や遠方の友人宅などを回ったり、足立区のこども広場で過ごしたりしたそうだが、なんといっても赤ちゃん相手のこと。想定外のことに戸惑うことは多かった。

例えば乗り物で子どもが泣き出してしまったとき。電車内ならまだしも飛行機内は"逃げ場"がない。子どもの世話では離乳食をあげるのに1回30分はかかる。つい「俺、この30分があればいろいろ仕事ができるのに」と考えてしまう。妻と育児方針の違いでぶつかる―など。

特にきつかったのは仕事ができないストレスだったようだ。会社でトラブルがあっても自分が会社にいればすぐに指示を出し対処できるが、休暇中だと対処に時間が使えない。育休中は1日2時間だけは仕事をしたいと予定していたが、そんな余裕もなかなかなかったという。「自分みたいのが社長やっていいのだろうかという葛藤があったし、正直にいうと今もあります」と複雑な胸の内を明かしてくれた。

それでも「仕事と育児ではあきらかに育児が大事」

学んだことも大きかった。まずは育児の大変さだ。いつ子どもからの"呼び出し"があるか分からない。「IT企業的には待機手当」の状態だと感じたという。また、「この子に何かあったらどうしよう」というプレッシャーも思いのほか大きかった。それゆえに妻の気持ちも理解できるようになった。以前は妻が愚痴を言うと、「潰し」に入り、「どうしたら解決できると思う」と返したりしたそうだが、今は「子どもと二人で向き合っていたんだなあと思うと愚痴の一言も聞こうと思う」。

2週間の育休中に「育児とは何か」を考え続けたという青野社長。その結論として「育児は仕事より明らかに大切なもの」と言い切った。「育児をしない社会だと子どもが育たず市場が縮小する。育児ができて市場ができてみんなが楽しく暮らすなかでようやく商売人は商売ができる」と経営者目線でその理由を語った。一方で1人のパパとしてはうれしそうな表情でこう話した。「子どもは本当にかわいい。自分の本能が刺激されてか、理屈じゃなくてかわいい。自分にとってそれはびっくりするような発見で目からうろこでした」。参加者から「二人目が生まれたら育休は?」と聞かれると「また、とるでしょう」と笑った。

7KともいわれるIT業界、イメージを変えていきたい

きつい、帰れない、給料が安い……。最近はIT業界に対するネガティブなイメージが広がっているという。青野社長は「(こうした)IT業界のイメージを変えていかなければならない」と話し、職場環境改善のためにサイボウズが取り組んでいることも紹介した。

同社では「ワーク重視」と「ライフ重視」から、育児介護に関わらず、働き方(ライフステージ)に応じて毎年どちらかを選べる人事制度を採用。また、育児介護休暇は最大6年間で短時間勤務制度は無期限で適用できる。

さらに現在は在宅勤務制度についてもテスト中で、月に4回は申告した上で在宅勤務が可能。育児が理由の人もいれば、「きょうは集中して仕事したいので」という理由もあるとのこと。「グループウェアを作っている会社ですから家で働けないとおかしいでしょ」と青野社長。最後は「IT業界の『7K』をぜひみなさんと変えていきたい。もっと育児を大切にする社会をつくっていきましょう」と締めくくった。

IT業界の7K

サイボウズの人事制度