"後悔"から編み出したハイレベルな抽出法

そして、なんといっても驚いたのは菊池伴武バリスタの抽出法だ。通常、ブレンド豆を使ってエスプレッソを淹れる場合、既にブレンドされているコーヒー豆をグラインダーで挽き、ポータフィルターに入れてエスプレッソマシンにセット。その後、抽出となる。しかし菊池バリスタはグラインダーを2台用意。それぞれに異なる豆を入れ、1台のグラインダーで豆を挽いてポータフィルターに粉を詰め、その上からもう1台のグラインダーで挽いたコーヒー粉を詰めていった。そしてその後は通常通りに抽出。

グラインダーを2台使い、ポータフィルターの中でブレンドするという高度な技に挑んだ菊池バリスタ

この方法は、その場でブレンドの割合が決まってしまい、つまりはブレンド比率がぶれやすく、理想としている仕上がりにならない確率が高い。バリスタの高い経験値が要求されるとても危険な方法である。さらに菊池さんは、エスプレッソとカプチーノでブレンド比率を変えるといった挑戦もしている。しかし、どうしてこんなにもハイリスクな方法を大会で選んだのだろうか。

コーヒー豆生産者の思いを無駄にしたくないという想いから、今回の抽出法を考案した

「実は以前JBCに出場した際、とても上質な豆があって使おうと思っていたのですが、他の豆と混ぜて挽くと、豆の硬さの違いからどうも思い通りの挽き具合とならなかったんです。それで、その豆の使用を断念したのですが、後になって自分の知識のなさのせいで、日々頑張っている農園の方々の思いを無駄にしてしまった、と非常に後悔しました」。競技後、こう語る菊池さんの目には涙が浮かんでいる。「なので、今大会ではどうしてもその豆を使いたくて。そこで、ブラジル産とニカラグア産を別々のグラインダーに入れ、後からブレンドするといった今回の方法を考えました」。

菊地さんは今年8月、仲間と一緒に「NOZY COFFEE」(東京・三宿)を立ち上げたとのこと。店ではこのエスプレッソやカプチーノを飲むことはできないが、こんなにもコーヒーや農園のことを考えているバリスタの一杯を飲んでみたい、そう思わせる競技内容だった。

今年のJBCも大変印象深く、余韻に浸っていたが、来年6月にはコロンビアでWBCが開催される。今回は、コーヒー生産国での初開催。この記念すべき大会で、ぜひ鈴木バリスタに日本人初の優勝を勝ち取ってもらいたい。

表彰式後のフォトセッションにて。前列左から中摩バリスタ、鈴木バリスタ、岡田バリスタ。後列左から菊池バリスタ、大澤バリスタ、村田バリスタ

撮影: 中村浩二