地域特性に応じて利用できる自然エネルギーがあるのではないか――?
そんな着想から生まれたのが、地域ごとの特性を活かし、一定の方向から吹き続ける海風の力を利用する電気自動車「風車」だ。

もともと風車は、千葉大学の松田慧さん(現 NTT東日本)とともに卒業制作として手がけた作品。それを、今回のアワードのテーマでもある「日常の問題を解決する様々なアイデア」を踏まえ、デザイン面も一新。同 加藤直樹さん、福永圭祐さんの助けも借り、完成させた。

電気自動車「風車」。「現在の電力生成方法では、電気自動車は本当の意味でのクリーンエネルギーとは言えないのではないか?」という疑問から作品づくりをスタート。風力とマグヌス効果を利用することで比較的弱い動力で航行できる"ローター船"にヒントを得た新しい電気自動車を提案した

数々の受賞歴をもつ岩原さん。ジェームズ ダイソン アワードへの応募ははじめてだが、「コンペは締め切りがあって、絶対そこまでにはアイディア出しをして、ちゃんとまとめなくてはいけない。それが刺激にもなるし、自分にとって成長できる場だと思っている」という。

「最初は、こんな乗り物があったらいいんじゃない? というノリでした。0から1を生み出せればいいな、と。

自動車における"CO2削減"という問題解決の糸口を、今は(一般的な)電気自動車に一本化しているじゃないですか。それぞれの地域ごとに自然エネルギーの特性があるのにローカライズしていかないともったいないと思ったんです。もっと多様化してもいいし、もっと個性があってもいい、という問題意識をもって制作をはじめました」

動画
「優れたクリエイターの方は、流れる景色を見てひらめいたりするんでしょうけど(笑)。僕はそれができないので『よし、考えよう』って。短期集中型です。電車の中でも家でもどこでもいいんですけど、"今から!" と切り替えないと何も生まれないです (笑)」 / ファイル容量:約8.82MB

「これだ! と決めた後は悩まないですね」と話すとおり、仕事もはやい。完成までは、日数にしたら1、2ヶ月。改良には1週間程度しかかけていないという。「本当にCD値にこだわったら自転車みたいなタイヤになるんですけど、デザインアワードなので見た目も重要かな、と」と"策略"の部分も忘れていない。

人間の本質的欲求を探りあてた、ダイソンの掃除機

デザインと技術、双方からアプローチした風車は、ダイソン製品にも通じるところがあるが、岩原さんに「ダイソン」はどう映っているのだろうか。

9月に発売された小型サイクロン式クリーナー「カーボンファイバーDC26」(モーターヘッドコンプリート)。静電気の発生を抑えるカーボンファイバーブラシを新たに搭載している

そんな質問を投げかけるとおもむろにノートを広げ、縦軸を「human(人間)」、横軸を「technology(技術)」とした座標軸をサラサラと書き出した。

「ダイソンの掃除機はイノベイティブだと巷では言われています。でも、ただ新しいだけでもイノベイティブだと評されるものはあると思うんです。

例えば…(と座標軸を書きながら)、よく言われているのが、iPodはテクノロジーとしては今まであったものを融合しただけですが、直感的な操作は人間の欲求を満たしてくれます。それにWiiはテクノロジーも新しいし、人間の本質に訴えるものがあります。

逆にセグウェイはテクノロジーは新しいけど、人間のことを考えていないされ、それが売れなかった原因とも言われています。新しい技術をただ持ってきて使っただけという印象を受けます。

次世代のデザインエンジニアの支援・育成を目的に、毎年開催されている国際デザインアワード「James Dyson Award」

ダイソンの掃除機のすごいところは、人間が用を足した後に便器を確認する、鼻水をかんだ後に見たくなるというような本質的欲求を探りあてて、掃除機に落とし込んだところだと思っています。個人的には、技術云々よりも、(スケルトンのダストボックスにより)ゴミを可視化させたところに価値があると思っています」

……影響を受けたのは、デザインシンキングの火付け役「IDEO」