――確かに、全編を通じてセリフの少なさが目立つと共に、独特の「間」を持った不思議な雰囲気が伝わってきます。

内山 : 「私にとってもすごく新鮮でした。心の動きをじっくり撮ってもらうというか、テレビドラマではなかなか味わえない感覚でしたね。もしかしたら一回観ただけではなかなか分からないかもしれないので、繰り返し見ていただくと、より美江の心の動きが分かってもらえるのではないかと思います」

――そんな和んだムードとは裏腹に、キム・ウンスさん演じる柳と美江が焼肉屋で向かい合い、光州民主化運動について話すシーンはとても印象的でした。

内山 : 「あのシーンは、半分は台本に書かれたセリフでしたが、残りの半分は実際に民主化運動を体験されたキムさんの言葉で語られているんです。ですから、すごくリアルで、そこだけドキュメンタリーを撮影しているような迫力で思わず聞き入ってしまいました。私は自由のために血を流さなければいけないという行動はなかなか理解できませんけど、活動していた人たちの強いエネルギーは感じました。ただ、キムさんもそのシーンの撮影後はそのことについてまったくお話しにはならなかったので、それくらい人間を追い込んでしまう強烈な出来事だったのだと思うと、とてもひと言では言い表せない気持ちです」

――内山さん自身のお気に入りのシーンは?

内山 : 「母とケンカをしてしまった後、仲直りにバレンタインのチョコレートを渡すシーン。二人で座ってショウガ湯を作り、ゆっくりと湯気が立って……言葉は少ないけど、二人が分かり合っている感じがして、とっても好きですね」

――話は変わりますが、デビューして12年。女優としてのキャリアも着実に重ね、今、心身ともに充実しているのでは。

内山 : 「そうですね……ようやく『仕事が楽しい』と実感できる余裕が持てるようになりましたね。もちろん、これからも目の前のことを一生懸命積み重ねていくことには変わりないですけど、昔は本当に目の前しか見えていませんでした。デビューして10年目くらいに振り返ることが出来て、『好きなことをやってみたい』『自分は何が好きなのか』、やっとそう思えるようになりましたし、そう言えるようになってから仕事が楽しいんですよ。今は『仕事が好き』と言えることが幸せなのかなって思います」

――では、最後に、映画を観てくださる人にメッセージをお願いします。

内山 : 「映像も音楽もすごく素敵なので、とてもキレイで心が温かくなると同時に、みなさんの知っている韓国とはまた違った見方が持てるのではないでしょうか。テーマはすごく重いんですけど、スーッと心に入ってくる作品だと思いますので、ぜひ映画館に足を運んでいただいて、ゆったりとした時間の流れを感じていただければ嬉しいですね」

ヘアメイク:佐々木篤(GLUECHU) スタイリスト:加藤暢子