あの名作テレビアニメ『昆虫物語みなしごハッチ』がオリジナル版放送の開始から40年の時を経て、新しく生まれ変わった『昆虫物語みつばちハッチ~勇気のメロディ~』としてスクリーンで甦ることに! 総合プロデューサーを務めるのは、第81回アカデミー賞外国語映画賞受賞作『おくりびと』の脚本を手がけた小山薫堂。初めて手がけたアニメ作品に、彼が込めたさまざまな思いとは――!?
立場の違うもの同士がそれぞれを思いやることの大切さを知ってもらいたい
その昔、『みなしごハッチ』を観ていたという小山薫堂氏。ところが、今回の『みつばちハッチ』はもともと彼主導のアイデアではなかったという。企画したのは『おくりびと』のプロデューサー・中沢敏明氏。彼から「また一緒にやってくれないか」と声を掛けられたことが、すべての始まりだった。受動的に関わることになった今回のプロジェクト。しかし、小山氏はすぐさま総合プロデューサー兼脚本家として新たな『ハッチ』を創り出すことに意義を見出し、積極的にアイデアを盛り込んでいった。
小山 : 「これまで作られた『ハッチ』は虫たち目線のみで自然界の厳しさなどを描いていました。ですから、メインキャラクターには一度も人間が出てこなかったんです。でも、今回はアミィという人間の女の子をメインキャラクターとして登場させることで、人と昆虫という2つの世界を描きたいと思いました。それぞれ異なる環境での事情、人間側では当たり前だけど虫たちにとっては大変なこと、またその逆も同時に描くことで、"学習"と言えば大げさですけど、立場の違うもの同士がそれぞれを思いやることの大切さを知ってもらえたらいいな、と思ったんです」
そのテーマは自ずと、昨今意識が高まっているエコや人間と自然の共生へとつながっていった。
小山 : 「最初は"エコでいこう"という意識はなかったんですよ。ところが制作していくうちに"でも、これがエコなんだよね"と、自分たちも気づいたんです。そういう風に後から発見することも結構ありましたね。例えば、泣きどころ。僕はハッチとママが再会する場面は観る側にとってもう当たり前だろうと思って、アミィとハッチが最後に迎える"ある局面"に泣かしのポイントを持ってきたつもりなんです。でも、やっぱりハッチとママの再会シーンで泣いたという人もいれば、アミィが川で流されそうになっている時に虫たちが背中を押すというシーンで泣いたという人もいて……。観る人の感性や年齢などによって感動するポイントも変わってくるんだ、と改めて気づきました」
その発言からも分かるように、今回の『ハッチ』は子どもでも大人でも心を打たれる作品になっている。「完全な子ども向けアニメにはしたくなかった」という小山氏。そのために、声優のキャスティングにもこだわった。実は今回、声優を務めるのは齋藤彩夏、アヤカ・ウィルソン、田中直樹(ココリコ)、小森純、板東英二、柄本明、中村獅童、安田成美ら。その中に生粋のアニメ声優の名前は見当たらない。
小山 : 「豪華な顔ぶれの方がいいということもあったんですが、それ以上に"全員アニメの声優さんにすることでアニメっぽくなりすぎること"を避けたかったんです。結果的に皆さん、"これじゃ誰が声をやっているのか分からないな"というくらい役にハマりすぎていて、驚きました」……続きを読む