言葉にならない違いを「音」で探すのが好き
――作曲する側としては、画が想像つかないというのは、かなり大変だったのではないですか?
菅野「ただ、ヒントはありました。小栗さんとの打ち合わせで、"導入のシーンに『カウボーイビバップ』の『WALTZ for ZIZI』のような曲が欲しい"とリクエストされたんです。『WALTZ for ZIZI』は、とてもけだるい曲なのですが、そういう曲が欲しいというイメージを聞いて、オープニングは派手に行くというイメージがあったので、珍しい感性の人だなと思いました。あと"京平のテーマは『ラデツキー行進曲』がいい"ともいわれて……。20代の若者が行進曲は普通持ってこない。小栗さんのセンスは個性的で、観る方の立場に立っているという部分は、サントラの大きなヒントになりました」
――それでも、手探りの苦労はあったのではないですか?
菅野「私は作業は手探りの方が好きなんですね。監督もわからないから、曲を画に当ててみてはじめて、『なんかちょっと違う』となる。そんなときに、その言葉で言えない"違いの綾"を探りながら、こういうことが言いたかったんだと音で探していくのが好きなんです。翻訳に近い作業だと思います」
――では、事前にガチガチに曲のイメージを固められて、『こんな曲を書いてください』というオーダーよりも、そういう手探りのほうが、菅野さんにとって良いのでしょうか? 菅野さんのように、たくさんのお仕事をされていると、依頼の時点で、ある程度、ゴールの読める曲作りというのもあると思うのですが。
菅野「どちらが良いということはないのですが、感じていることの『ちょっとの違い』を埋めていくやり取りという面白がれるポイントがあるのが好きなんですね。先の読めない作品に関わることって、偉くなってくると少なくなるんですよ。偉くなると、絶対にはずさないことを期待されるし、デモテープでこれで行きますと関係各位全て根回しされてから作る事が多いんです。『菅野さんなら、きっとこんな曲を書いてくれるだろう』と夢を持たれることも多いですし(笑)。今回の映画は若者たちが主演の青春映画でバンドが出てくる話ですが、今風のバンド曲は求められていなかったし、手探りでゴールが読めない現場は楽しく新鮮でしたね」
――完成した映画を観て、ご自身の楽曲と合わせて、どんな感想をお持ちですか?
菅野「これだけ、ぐちゃぐちゃにやって、画と音がしっかりと拮抗しているので、良かったと思います。曲と映像が一緒に暴れてる感じ。今回は脚本を読ませていただいた時点で、脚本のグルーヴ感がすばらしかった。にぎやかな言葉の応酬のなかに、色々な音楽が短時間に出入りしたら雰囲気出るだろうなと思って、そういうテンションは実現できたと思います」
――この作品では、バンドや音楽もテーマのひとつです。菅野さんもバンド出身者という事で、何か感じる部分はありましたか?
菅野「そうですね。バンドがテーマの作品は今回が初めてでした。バンドの生き様、人間模様とか好きなので、今回はそれを思い出しながら、青臭さを音にしていた部分もありますね」
――最後に、このサントラを手掛けていかがでしたか?
菅野「楽しく作る事ができました。映画を観ないでこのサントラを聴いたら、どんな映画か、まったくわからないと思いますけど(笑)。共演したアーティストの方々とは、またご縁があったらやりたいです。アーティストの方だけでなく、俳優さんも、皆さん演技も歌も本当に上手だったので、また一緒にお仕事したいです」
「Surely Someday」 |
映画「シュアリー・サムデイ」は全国ロードショー公開中
インタビュー撮影:糠野伸