竹中平蔵元総務相、「現在の世界経済はLUV(ラヴ)の状態」
一方、午後のセミナーでは、元総務相で慶應義塾大学教授の竹中平蔵氏が基調講演を行った。竹中氏は冒頭、「このまま民主党の政権が続くと大変なことになる」とした上で、リーマン・ショック後の世界経済は、景気の曲線で見ると、「LUV(ラヴ)」の各アルファベットに表される3つに分かれた状態にあると説明した。
「LUV(ラヴ)」の「L」字は欧州の経済状況、「U」字は米国の経済状況、「V」字は中国を中心としたBRICsや韓国などの経済状況を表しているとし、「日本はLとUの中間で、限りなくLに近いが、Uにもっていくことは不可能ではない」との認識を示した。
ソブリン(財政)危機が続く欧州に関しては、「ギリシャの問題は今に始まったことではないが、スペインに波及するかが最大のポイント」とした。また、「(ギリシャなどの)国債を持っているのはフランスとドイツの銀行であり、(これらの銀行の危機に発展すると)ヨーロッパ全体に被害を及ぼす可能性がある」と述べた。米国については、オバマ政権の国家経済会議(NEC)委員長を務めるローレンス・サマーズ氏の話を引用する形で、米国経済のファンダメンタルズは何ら病んでおらず、財政政策を拡大した「exit(エグジット)」をどうするかが問題と指摘した。
中国に関しては、「ネガティブな面だけでなく、ポジティブな面に目を向けるべき」とし、「8年後は中国のGDPは、日本のGDPの2倍になっている、そういう目で中国を見ていかなければならない」と述べ、「意外と早く米国を追い越す可能性がある」とも話した。だが、経済成長に伴う社会的な反動が2010年代の後半にあるかもしれないとし、それが東アジア全体の不安定要因になる可能性について指摘した。
「事実の認識を誤ると、将来の処方箋を間違う」
こうした状況下、日本はどのような立ち位置でやっていけばいいのかについて、竹中氏は、「事実の認識を誤ると、将来の処方箋を間違う」と強調。その例として、バブル崩壊後から「失われた20年」と呼ばれることに対し、「『失われた12年』と『下げ止まった5年』と『最も失われた3年』が正しい」とし、小泉内閣時代の「下げ止まった5年」においては、不良債権の処理や道路公団・郵政の民営化に取り組んだと説明した。またその間は、株価と雇用が上がったとも述べた。
また、先日行われた「G20」で、日本だけ財政再建の面で例外扱いされたことについて、「基本的なメッセージを見誤っている」と指摘。例外扱いされた理由は、日本経済がまだ需給ギャップを埋め切れておらず、世界の首脳が、日本はまず需給ギャップを埋めてデフレから脱却することが必要だとのメッセージだったと解説した。
竹中氏は「政策に打ち出の小槌(こづち)はない」とし、「当たり前のことを当たり前にやっていくのが大事」と述べ、日本マクドナルド創業者の藤田田氏が、「経営というのはホームランを狙っては駄目」と話していたことを明らかにした。
民主党が「未成熟な政権交代をした」と批判
さらに、民主党が「未成熟な政権交代をした」とし、その理由として、経済財政諮問会議を全否定し、このことにより「経済政策の司令塔がなくなった」ことを挙げた。一方、菅直人首相に関しては、「リアリスト」とし、「次第に現実的な姿が見えてきた」と述べ、その例として、法人税率の引き下げを言い出したと述べた。
参院選の焦点ともなっている消費税の引き上げについては、「消費税を引き上げる前にやることがあるのではないか」と述べ、財政再建をする際にうまくいかないケースとして、「まず増税する」ケースがあり、菅首相がこの例に当てはまることを示唆した。
竹中氏は菅首相の政策について、フランスのミッテラン元大統領を参考にしてほしいと述べ、社会党からの大統領だったミッテラン氏が、就任当初の左派色の強い政策がうまくいかなくなると、政策を大転換し、さらに、政敵であったシラク氏を首相にしたことなどを挙げた。
最後に竹中氏は、幕末の思想家である吉田松陰の辞世の句「身はたとひ 武蔵の野辺に朽ちぬとも 留め置かまし 大和魂」を引用し、「民主党の政治家に言いたいことがある。政治家なんだからリスクをとってやってほしい」と、厳しく注文した。