自らが探しに行く広告

こうした数々のレポートが行われるなか、実際にiAdがどのような形で表示され、ユーザーにどのような体験をもたらすのか気にしている読者の方々もいただろう。筆者自身も今後のモバイル広告の可能性という部分でiAdを非常に気にしており、7月1日の配信開始とともにどのような広告が配信されるのかを体験すべく、実際に複数のアプリを購入したばかりのiPhone 4にダウンロードして試してみることにした

まず最初の課題は「どのアプリでiAdが表示されるのか」という部分だ。iAdを組み込んでAppleの審査を通過するのが6月末と仮定し、著名な無料アプリを中心に片っ端から調べていくという方法もあるが、これでは効率が悪い。そこで現地時間の昼ごろからユーザー報告や各メディアの報道を頼りに、順次iAdの広告が確認されたアプリを試していくことにした。iAd確認例としてはEngadgetの記事Tuawの記事がよくまとめられており、ここで「Mirror: for iPod and iPhone」や「Tiptitude」などのアプリでiAdが出現したという報告がなされている。Engadgetでは、WWDCでのデモストレーションが行われなかった「Dove」の広告をスクリーンショットつきで紹介している。

ここで疑問に思われた方もいるかもしれないが、「iAdは必ずしも出現しない」ことがあるのだ。というよりも、出現する確率のほうが非常にレアだ。筆者はiPhone片手に3~4時間ほど連続でこれらのアプリを相手にずっと格闘していたものの、結局最後まで広告が出現することはなかった。正確にいえば、「iAd」と書かれた広告の枠だけが出現することもあれば、何も出現しないケースもある。さらにいえば、なんとiAdの代わりにAdMobなど、サードパーティのバナー広告が出現するケースもある。こういった現象は、Avantarというデベロッパーの「Showtimes」や「Munch」などで確認できた。ShowtimesではiAdの枠のみが出現し、クリックしても何も起こらず、他の広告も出現しない。一方のMunchは、入力したクエリーによって表示される広告が変化する。ただしこちらもiAdの広告自体は出現しない。先ほどのMirrorアプリなどに至っては、そもそも広告そのものが出現しない。

iAd対応アプリの1つ「Showtimes」。位置情報を取得して近隣の映画情報を表示するアプリだ。このアプリではiAdの枠だけが表示され、中身は出現しない

iAd対応アプリの1つ「Munch」。Showtimesと同じデベロッパーのアプリだ。こちらも位置情報を取得して、検索クエリーに応じた近隣の店舗情報を検索するサービスだが、表示される広告はiAdだけではなく、非常にバラエティに富んだものがバナーとして出現する。バナーをクリックすると画面サイズ程度の広告が出現したり、あるいはこの例のように特定のサイトへとジャンプしたりする

「Mirror」というアプリでは、iPhone 4のフロントカメラを使って鏡像を画面に表示する。つまり「鏡」として機能するわけだ。それだけのアプリなのだが、ごくたまにメニュー画面に広告が出現するという話が……

実際、同業者などの話を聞いていても、同じようにiAd表示にはトライしたものの「まったく広告が出現しない」という声を多数聞いた。前述のように出稿が非常に絞られていることもあり、表示すべき広告自体が存在していない可能性も高い。前述のようにスクリーンショット取得に成功した例もあるわけで、裏返せば「場合によっては出現することもある」のだが、このような宝くじやスロットを引き当てるような確率で広告を自ら探しに行くというのも奇妙な話だ。本来であれば広告はユーザーに対してどのようにアプローチするかをつねに探る側であるわけで、現在のiAdはまだその段階には至っていないといえる。

もう1つ興味深いのは、前述のようなiOS SDKの新規約にも関わらず、AdMobなどサードパーティ製広告の配信がアプリ内で行われていることだ。これに関しては先ほど紹介したWSJのレポートでも指摘されており、現在のところAppleがGoogleに対して広告ネットワーク構築を黙認している可能性がある。FTCの調査が開始されたこともあり、表立った排除行動を避けているというのだ。だが規約で示されている以上、いつかは排除される可能性も残されており、この部分についてデベロッパーらの疑念は当分消えることはないだろう。