米Appleの予告通り、7月1日(現地時間)より同社のモバイル広告システム「iAd」の配信が開始された。従来までの携帯向けのテキスト広告や小さいバナー広告などとは異なり、スマートフォンの特徴を活かした、よりリッチでユーザーが思わずチェックしたくなるような広告環境の提供を主眼に置いている。今回は、このiAd配信に絡んだ最新事情についてレポートしていこう。

「iAd」を発表する米Apple CEOのSteve Jobs氏

iAdが抱える課題

先ほどのWWDCでのレポートにもあるように、iAdがサポートするiOSデバイスの累計販売台数が1億台、日産やWalt Disneyを含む大手広告主らがすでに参加を表明しており、2010年下半期だけでiAdの売上げは6000万ドルを超え、米国におけるモバイル広告支出の半分を占める規模に達しているなど、比較的華々しい話が多かった。実際、WebトラフィックベースでのiOSデバイスのシェアは世界でも突出しており、これをそのまま広告市場に持ち込むことができれば、今後の成長余地と併せて、Appleという広告業界では新興の企業により、一大勢力が誕生することになる。

だが、こうした話の一方で、iAdに関しては7月1日の正式ローンチ前にいくつかの問題や懸念が周囲から発せられた。その1つが、サードパーティのiOSへの広告参入の問題で、Appleが6月7日のWWDC以降にiOS SDKに記した改定済みの規約について、米Googleならびにその傘下のモバイル広告企業である米AdMobが強い姿勢で批判を行っている。アプリ内で利用する広告システムについて、最も重要となるのは、ユーザーのプロファイルや利用状況を取得し、それを分析する広告ネットワークの仕組みだ。初期のiOS SDKの規約ではこうしたデータ収集に関する制限が記載されていたが、6月7日の改定ではサードパーティの広告参入を認める一方で、さらに「モバイル向けOSや開発ツール、モバイル機器そのものを提供するベンダーまたはその子会社は対象外」という項目が追加された。これはAndroidを抱えるGoogle傘下のAdMobなど、既存の大手広告事業者らを実質的に排除するもので、「iOSでは基本的にiAd以外の利用を認めない」に等しい措置だと考えられている。これに対し、米連邦取引委員会(FTC)は独占禁止法の観点からすでに調査を開始しており、現在も懸案事項として残っている。

これとは別にiAdについて指摘されているのが、広告の出稿料金の高さとローンチの遅れだ。米Wall Street Journalの報道によれば、関係者からの話として、AppleはiAd出稿に対して広告主らに案件あたり100万ドルの料金を提示しており、一部のローンチカスタマーの中には1000万ドル以上の支払いを行った広告主もいるという。業界の相場は同種の広告契約で現在10万~20万ドル程度であり、iAdの出稿料金はその5~10倍に相当することになる。これだけを見ても、AppleがiAdに非常に大きなプレミア性を持たせていることがわかる。米Advertising Ageの報道によれば、この1000万ドル以上の支払いに応じたローンチカスタマーには日産とCiti Bankがあり、それぞれ「自動車」「銀行」というカテゴリで独占的に広告表示スペースを得られる特権が与えられているという。また通常の100万ドルコースでいえば、バナー表示の1,000インプレッションあたりの価格が10ドル、そのバナー1クリックあたりの単価が2ドルとなる。これに対する広告効果は、今後順次検証されていくだろう。

またAdvertising Ageによれば、米Apple CEOのSteve Jobs氏がWWDCで紹介した広告主の多くが、この7月1日のiAdローンチには広告提供が間に合わない状態にあるという。これは複数のiAd契約に従事しているある広告代理店の情報を元にしており、技術的問題から少なくとも6~8週間は準備にかかるとの通達が行われており、これに従えば8月後半までは多くの広告が提供されない可能性があるということになる。既存の広告主や事業者らには、iAdでどのような広告を作成するのがアピール力が高く効果的なのかというノウハウがほとんどなく、手探り状態で制作を進めている様子が伝わってくる。この投資効果の測定と技術的な問題の解決が、今後iAdにおける重要なポイントとなるだろう。