まずは今回のテストシステムを紹介しておく。マザーボードにはメイン機材としては、MSIのハイエンドマザーボード「Big Bang-Fuzion」(BIOSは2010/04/28付 MS-7582v1.1)を利用していくが、一部、倍率設定の説明のために別のマザーボードも何枚か利用している。
■今回のテストシステム | |
M/B | MSI Big Bang-Fuzion |
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Mem | DDR3-1333 2GB×2 |
GPU | ATI Radeon HD 5750 |
HDD | Seagate 7200.11 1TB |
OS | Windows 7 Ultimate 64bit |
最初に言っておくと、今回のテストでは、スレッドを物理コアに確実に割り当ててTurbo Boostの動作を調べやすくするために、Hyper-Threadingは全てオフ行なっている。ベンチマークソフトなどのスコアもそれに準じたものになるので、注意いただきたい |
さて、それでは実際にCore i7-875Kを動作させてみよう。Big Bang-FuzionにCore i7-875Kを搭載した状態でのBIOS設定の画面から説明する。まずBIOSの「CPU Specification」の内容を見ると、「CPU Ratio」の項目の「22」が、i7-875Kの定格内部倍率である22倍のことで、「Ratio Status」の項目に「Min:09, Max:Unlimited」とあるとおり、最低9倍から上限無限に倍率設定できる(つまり「"通常の"動作周波数の倍率ロック」がフリー)ということを示している。
「Ratio Status」の項目に「Min:09, Max:Unlimited」と表示されていることを確認して欲しい |
ちなみにこれは同環境に「Core i5-750」を載せてみた例。MAXのところは定格20倍までに抑えられている |
この環境の場合のBIOSでは、「Cell Menu」下の「Adjust CPU Ratio」という項目から、"通常の"動作周波数の倍率を設定できる。で、ここが肝心なのだが、倍率をひとつでも上げると、Turbo Boostが無効になってしまうのだ。
では今度は、「"Turbo Boost"動作周波数の倍率ロック」の方はどうだろう。BIOSの設定項目を呼び出してみると、どうやらこちらもロックフリーとなっており、例えば、1コア動作時だろうが、4コア動作時だろうが、すべてのシチュエーションで5binアップの27倍に設定する、なんてこともできてしまう。
微妙だが、一応"通常の"も、"Turbo Boost"の倍率も、ロックフリーとなっているようだ。ただ、「Core i7-875K」を、"通常の"動作周波数の倍率23倍にして、「Core i7-880」相当にするという当初の目論見とはちょっと違う動きである。Core i7-880相当にできるのかどうか、言い切り難いところである。
では、先に「結論から言ってしまうと、これはYesともNoとも言える。」と言ったのはどういうことなのかだ。あくまで実使用の視点で見れば、Core i7の"定格"の動作周波数というものは、Core 2など、以前までのIntel製CPUの"定格"とは、ちょっと違う風に考える必要があると思えるからだ。
Core i7-875Kを例に、具体的に説明すると、このCPUの定格動作周波数は2.93GHzである。しかし実際に、2.93GHzで上も下も無く動作するわけではない。だいたいのアイドリング状態では、内部倍率が動的に規定の9倍まで落ちて、1.2GHzに貼り付くし、作業をさせれば、動作コア数に応じて、最大で3.6GHzまで上がっていく。「2.93GHzがまさに定格」と思えるシチュエーションは、ベンチマーク目的などでスピードステップなどを全てカットした時くらいだろう。実使用の環境では"定格"を意識する場面はほぼ無いのではないだろうか。
では、"定格"は意識せず、Core i7-875Kの"通常の"動作周波数の倍率は22倍のそのままで、"Turbo Boost"動作周波数の倍率はそれぞれ1binアップさせると、
動作状態 | アイドル | 1コア時Turbo | 2コア時Turbo | 3コア時Turbo | 4コア時Turbo |
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周波数 | 1.2GHz(9倍) | 3.73GHz(5bin/28倍) | 3.6GHz(4bin/27倍) | 3.33GHz(2bin/25倍) | 3.33GHz(2bin/25倍) |
となるわけで、"定格"は23倍では無いわけだが、実際の動作でCore i7-880相当と言えない理由は、あまり無い様に見える。
今回の環境では、例えば「"通常の"動作周波数の倍率」を30倍にした場合と、「"Turbo Boost"動作周波数の倍率」で各動作状態すべて30倍にした場合で、CPUの挙動は同じになっているようだし、違いがちょっとわからない。なので、動作コア数に応じて設定できる分、「"Turbo Boost"動作周波数の倍率」だけで良いのではないかと思える。
では今度は、マザーボードだけを、世代もBIOSも少し古い別の製品に変更してみた例を見て欲しい。以下写真の「CPU Ratio Setting」の項目で、同じように動作周波数の倍率を設定できる。ただ、この環境の場合は、先ほどの環境と違い、Turbo Boostの設定項目がON/OFFくらいしか存在しない。実際に、この環境ではCore i7-875Kの倍率オーバークロックは、Turbo Boost無効状態での、"通常の"動作周波数の倍率で動作周波数を上げるしかなかった。
この環境では、「Ratio Status」はUnlockedで、「"通常の"動作周波数の倍率」は「CPU Ratio Setting」でいくらでも変更できるが、Turbo Boostの倍率は変更できなかった |
実はネタばらしとして、「Core i7-875K」と「Core i5-655K」の倍率ロックフリーが、結局、何の倍率をさしているのかを、実は既にIntelに直接聞いてしまっている。その際の回答が、今回の"K"付き2モデルは「"Turbo Boost"動作周波数の倍率がフリー」だというものだった。今回は試していないので定かでは無いが、もしかすると、Intel純正のマザーボードを利用した場合などは、そもそも"Turbo Boost"動作周波数の倍率の部分しか設定できないのかもしれない。先ほどの例もあるので、製品やBIOSバージョンによっては、倍率の設定項目にバラつきがある可能性はあるだろう。
さて、最後に今回の総評のようなものを。1,000個ロット時の単価を見ると、Core i7-875Kが342ドル、Core i5-655Kが216ドルと、絶対値としても心理的に手が出しやすい価格帯となっている。両モデルが登場した時点での、"K"無しに当たる製品との価格差はわからないが、倍率ロックフリーのインパクトは絶大で、500ドル超クラスの上位モデルとの差異はこれまでに無く僅かに感じることができるだろう。一時期、"K"付きのIntel製CPUが、海外市場などで極限定的に流通したことはあるのだが、そうした特例では無く、レギュラーモデルとしてこういった製品を投入してくるというのは、これまでのIntelの値段設定の法則を考えると、にわかには信じられない。下手をすると、DIY向けCPUは100ドル以下、200ドル、300ドル、残りは999ドル以上……のような状態になりかねないだろう。お買い得であることは間違いない。