時計といえばスイスが本場。だけど、おとなりの国、ドイツだって負けちゃいない。いや、むしろ質実剛健なドイツの時計は、機能性を重視する日本のカスタマーにファンが多い。なかでもフランクフルトの時計メーカー、「ジン(Sinn)」の時計作りには、驚嘆すべきテクノロジーが秘められている。その詳細を、ドイツ本国のCEOであるローター・シュミット氏が来日し、去る5月19日に日本のリテイラーやプレス向けのカンファレンスの場で説明した。

近年の時計界には珍しいエンジニア出身のCEO、ローター・シュミット氏。有名ブランドで数々の功績を残した時計界の大御所だ。1994年にジンに入社し、同社のテクノロジーに飛躍的な進化をもたらした

これまで6度来日しながらも、日本の公の場でシュミット氏がブランド説明を行うのは今回が初めてだという。たしかに、日本ではまだ一部の時計ファンをのぞいて、ジンの知名度はさほど高くはない。

しかし、ドイツ本国では、ジンといえば「空」「陸」「海」で活躍するプロフェッショナルのための時計メーカーとして有名だ。第二次世界大戦時のドイツ空軍パイロットであったヘルムート・ジンによって1961年に創業。それ以降、プロが信頼するに足る"計測機器"を作るという信念のもと、ジンはひたむきにハイスペックな時計作りに邁進してきた。今でもパイロットや職業ダイバー、あるいは警察関係者など、きわめて危険度の高い職務に従事する人々にジンの時計は愛されている。

会場で見かけたファン垂涎の日本限定モデル。こちらは視認性の高いシンプルな文字盤を採用した「556」のスペシャルカラーで、モカとベージュの2種類を用意。各限定150本。11月発売予定

いうなれば、ジンの時計は、特殊任務に従事する者にとっては命綱ともいえる存在なのだ。彼らは、常に厳密なタイムコントロールのもとにミッションを遂行している。たとえどんな過酷な環境下にあっても、壊れにくい時計、また見やすい時計を目指さなければならないのだ。「ジンは決して時計作りに妥協を許さない」と、シュミット氏は語る。

同じく日本限定モデルの「マイスターブンドII」。ジンのベーシックなパイロットモデル「103.B.AUTO」をベースにするが、アクリル風防の採用でヴィンテージライクな印象に仕上げている。ディアパル・テクノロジーも搭載。限定80本。11月発売予定

ジンが要求するレベルのケース作りを行う外注メーカーがどこにもなかったため、みずから工場を設立して、そこで自社製品の外装作りのいっさいを行ってきた、というほどにジンの姿勢は徹底している。

ちなみに、このような子会社を含めても、ジン全体のスタッフは100人程度と、決して大規模な体制とはいえない。しかし、同社には非正規雇用の社員は一人もなく、スタッフ全員が一丸となって自社のフィロソフィーに徹した時計作りを行っているという。

また、他の多くの時計ブランドとは違って、ジンはどこの資本グループにも属していない。この独立企業としてのスタンスを守り抜いている点も、「大きなアドバンテージである」とシュミット氏。一枚岩の体制によってこそ、ジン・テクノロジーを注入した最強のタフ時計が完成するのだ。

しかし、このようなジンの高度なテクノロジーを紹介する前に、シュミット氏はまず、ジンの開発スタイルについてのエピソードを披露してくれた――。…つづきを読む