――もう一度スタンについての話に戻させてください。南さんも作品作りに関わられて長いですが、それよりさらに長いスタンとのやり取りで、『このじいさんはすげえな!』といった印象的なものはありましたか?
「やっぱりヒーローものを長年やっているだけの重みがありますよね。例えば日本のヒーロー物は、ヒーローが何人か出てきて、お互いに補ったり、ぶつかったりするじゃないですか。だから、『HEROMAN』でもそういったアイデアがでたりしたんですけど、スタンはひと言『NO』。『ヒーローはひとりでいい』と、この言葉力はすごいものでしたよ」
――スタンの美学ですね
「キャラクターを何人かに分散させるよりは、一人の主人公をどれだけ掘り下げていくか。そういうところはすごく大事にしているんだと思います」
――『HEROMAN』のデザインが決まった経緯はどういった感じですか?
「コヤマ君が最初に出したデザインは、もっとスタイリッシュで、細身のものだったんです。それで、アメリカとはSkypeを使って会議をしていたんですけど、そのデザインを見たスタンは、もっと重量感を持たせたいらしく、パソコンの画面の向こうで『ズーン、ズズーンだ、わかるか?』みたいなことをジェスチャーしながら言っているんですよ。最初はピンと来なくて『参考にできるものはあるか?』って聞いたら、東映版『スパイダーマン』のレオパルドン(※)を見せられて、『これかあー!』って、こっちはみんなで大納得ですよ(笑)」
※) 1978年に日本の東映が制作した特撮ドラマ『スパイダーマン』では、東映版オリジナルとなる巨大ロボット「レオパルドン」が登場する。
――またよりにもよってレオパルドンですか……。スタンはレオパルドンがお気に入りだったんですか?
「いろいろと日本では言われていますけど、実はそうだったようですね(笑)」
――スタンとの打ち合わせは、基本的にSkypeですか?
「そうですね。ただスタンの時間が向こうのお昼の1時間ぐらいしか取れなかったんですよ。時差があるので、それが日本では朝の8時からになっちゃって……。夜型のスタッフは大変でしたね(笑)。基本的に脚本はスタンに全部見てもらっています。それこそアメリカ方式で、脚本のセリフの上に全部番号を振って、『何番のセリフはこうしたい』というリクエストがあって、それにこちらが応えるというキャッチボールを続けましたね」
――先ほど南さんは、「スタンの言うことはできるだけ全部聞こう」という目標があったとおっしゃっていましたが、そんな中でも、さすがにこれは無理だったというものはありましたか?
「そうですねぇ……。たとえば、『足が不自由な男の子を出してくれ』というリクエストがスタンからあって、コヤマ君が"サイ"のデザインを見せたんですよ。そうしたら、『すばらしい! こっちを主人公にしよう』ってスタンが言い出して、思わず『待て待て待て!』って(笑)。スタンは『ハンデを乗り越えていくのがヒーローだ』って言うんですよ。でも、松葉杖で歩く芝居をアニメーションで表現するのって、ものすごく大変なんですよ。だからそこは我慢してもらいました」
――作画の大変さだけではなく、物語そのものも変わってしまいそうですよね
「あとは、序盤の戦いがひと段落して、新しい展開に入っていく際、それぞれのキャラクターを掘り下げる話を入れさせてもらうように話しをしました。当初のプランだと全編ずっとアクションだったんですよ。それは『常に派手なものを見せないとチャンネルを変えられてしまう』というアメリカのセオリーらしいんですよね。あれだけ多種多様な人たちがいる国で、できるだけ多くの視聴者を満足させるためには、そういうフォーマットがベストという判断なんです。そういう要求がある中で、こちらの構成も納得してもらいながら進めることはできましたので、シリーズ全体としてもおもしろい組み立てにできています。どれだけ日本流の変化球を混ぜられるか、変化球をうまく混ぜれば、スタンのストレートも効いてくると思うんですよ」