IDFの初日2人目の基調講演は、ソフトウェアを担当しているRenee James副社長。ある意味、この基調講演は、組み込み系のプロセッサ(Tunnel Creek)と合わせて、Intelが今、中国などに最もアピールしたい部分だ。
というのは、今年末に登場予定のMoorestownでは、彼女の担当するMeeGoが唯一のオペレーティングシステムとなるからだ。Moorestownは、Lincroftプロセッサと、Langwellと呼ばれるチップセットからなる。これを使うと、スマートフォンを構成したときにメインボードをクレジットカードサイズに押さえることができる。Moorestownを使ったスマートフォンは、LG電子やNOKIAが開発中だ。
当初、このMoorestownは、スマートフォン向けのみとされ、IntelがバックアップしているMobilnをオペレーティングシステムとして採用することになっていた。スマートフォンでは、すでにマイクロソフトがWindows MobileでARM系のみの対応となっており、iPhoneやAndroidなどもARM系である。Androidは、アーキテクチャ上、アプリケーションをJavaで開発するため、プロセッサは、ARM系でなくてもいいのだが、現時点で登場しているスマートフォンは、ARM系のみだ。というのも、携帯電話ではARM系プロセッサのシェアが高く、ARMを使って携帯電話を作るのは比較的容易なのに対して、他のプロセッサ、特にこれまで携帯電話に採用されていないようなプロセッサでは、ハードウェア制御などの部分をゼロから作らねばならないため、検証などを含めると開発に時間がかかり、コストも上がってしまう。
携帯電話という市場では、PCで高いシェアを持つインテルアーキテクチャも、最後発での参入ということになる。そこで、各社の開発の手間を省くためにオペレーティングシステムをMobilnひとつに絞ったわけだ。また、すでにマイクロソフトもARM系を採用しているため、PCのようにマイクロソフトの力を借りるわけにもいかない。
Intelは、Clutterと呼ばれる3次元のGUIを開発したイギリスの会社を買収するなどしてMobilnの強化に努めてきたが、Androidが急増し、iPhoneに迫る勢いを見せる現状、単にLinuxというだけでは力不足が感じられた。
それをカバーするためか、今年2月にバルセロナで開催された携帯電話のイベントMobile World Congressでは、NOKIAと提携。NOKIAが後押しするMaemoとMobilnを合体、MeeGoというプラットフォームを両社で推進することを発表した。
だが、NOKIAも、世間でいうスマートフォン分野では、ちょっと遅れを取っていた。もともとNOKIAは、高性能な、スマートフォンクラスの製品用には、Symbianを採用しており、上位機種にはSeries90、中位機種には、Series 60という2つの製品を用意していた。これに対してMaemoは、Internet Tabletという、携帯電話と組み合わせて、Webのブラウズやメールを扱う製品用に用意されたLinuxをベースにしたオペレーティングシステム(ディストリビューションの1種)である。NOKIAの現行最後のMaemoマシンは、N900で、この機種には、携帯電話が内蔵されており、りっぱなスマートフォンであるが、その前までに出荷されたInternet Tabletは、すべて無線LANとBluetoothのみの搭載で、携帯電話機能を搭載していなかった。NOKIAにすれば、いわゆるスマートフォンは、Series60という位置付けだったのだろうが、Windows Mobileなどに押され、少し旗色が悪いところにiPhoneが登場、大きな打撃を受けてしまう。また、Linuxのデスクトップなどに使われていたQtの開発元であるTrolltechを買収する。ここにちょっとした戦略の迷いが見られた。というのは、Maemoでは、Qtを使っておらず、統合するにしても、時間が必要だし、筆者の印象では、QtなどなくてもMaemoは十分な機能を持っていた。
その後、NOKIAは、方向転換し、Symbianは、オープンソース化して、実質的には手を離し、戦略の再構築を行おうとしていた。
そして、今年2月のMobilnとMaemoの合体である。幸いなことにMobilnは、Qtを採用しており、両社のリソースは互いに補完的な部分があった。最も、両社とも、いわゆるスマートフォンには出遅れおり、ポジション的にも組みやすかったのであろう。このときの発表会に出席したのが、今回、基調講演を行うRenee Jamesなのだ。