ボサノヴァ、ジャズ、ソウル、クラブミュージックが溶け合った楽曲と、クールなフィメール・ヴォイスが奏でる、ただひたすら良質なPOPミュージック。それを発信し続けるアーティスト paris matchがデビュー10周年を迎えた。paris matchはデビュー前からPro Toolsを導入し「スタジオと同じレベルのレコーディング」を自宅スタジオで実現させていた稀有な存在だ。paris matchの全楽曲を手掛ける杉山洋介氏に話を訊いた。

paris match
2000年4月ビクターからアルバム「volume one」でデビュー。「SUMMER BREEZE」、「太陽の接吻」、「STAY WITH ME」、「ETERNITY」等、テレビCMやドラマで楽曲が多数使用される。これまで、8枚のオリジナルアルバム、1枚のカバーアルバム、2枚のベストアルバムをリリース。日本のみならず、韓国を始めとしたアジア圏内や欧米でも高い評価を得る。2009年には約2万人規模の「第12回保寧(ポリョン)マッド祭り記念アジアドリームコンサート」にゲスト出演。ソウルでは2日間に渡るワンマンライブを敢行。メンバーの杉山洋介は、全ての楽曲の作曲/編曲を担当。レコーディングから最終的なミックスまでを、自ら設立したcoolism recordsのスタジオにて行っている。また、jazoulster名義でのソロアルバムも発売。MAYSA LEAKをフューチャーした「FAMILY AFFAIR」(スライ&ザ・ファミリー・ストーンのカバー)が海外でも大きな話題になり、ロンドンのJAZZ-FMのコンピ等にも収録された。レーベルプロデューサーとしても活動を開始。
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2000年のデビュー時から、Pro Toolsで自宅レコーディング

杉山洋介氏

――paris matchは今年でデビュー10周年ですが、デビュー当時から作曲、編曲だけでなく、レコーディングまで杉山さんご自身の自宅スタジオで行われていると訊きました。

杉山洋介(以下、杉山)「2000年のデビューの時からPro Toolsを使用してレコーディングを自宅スタジオでやっています。最終的なミックスまで自宅でやるようになったのは2004年の頃からですね」

――当時、いわゆる「宅録」とは違う意味で、そこまでやっているアーティストは少なかったのではないですか?

杉山「2000年当時はPro Tools出回りだしたころで、そこまでやるアーティストは確かに少なかったですね。まだ、アルバムジャケットの裏に『This album's recorded by Pro Tools』と表記されていた時代ですね」

――Pro Toolsでレコーディングスタジオ同様の環境を整えるというのは、当時どのような意味があったのでしょうか?

杉山「CD、音楽制作で一番お金の掛かる部分というのが、やはりスタジオ代だったんですね。スタジオのレンタル代や、そこのレコーディングエンジニアさんの人件費など、かなりお金がかかってしまいます。自宅でスタジオと同じクオリティのレコーディングが出来るようになって、Pro Toolsを使い出した当時は、とにかく嬉しかった記憶があります」

――paris matchの楽曲では、打ち込みの音だけでなく、生楽器の演奏も大きな魅力なのですが、それらも自宅スタジオで録音されているのですか?

杉山「楽器自体が大音量のドラムやトランペットやトロンボーンのような管楽器はスタジオを使用して録音していましたが、現在は自宅スタジオに別室のブースも作って、すべて対応できるようになっています。僕たちの曲に関しては、PCとPro Toolsがあれば、スタジオで録音したものと、何も音質的に変わらないです」

ミュージシャンは新しいツールへの対応も早い

――キャリアの長いスタジオミュージシャンの方々も、そういった最近の新しいというか、自宅でのレコーディング環境に対応しているのでしょうか?

杉山「キャリアのある方ほど、新しいものには飛びつくし、対応していますね。例えば、ギタリストの松原正樹さん(paris matchのライブやレコーディングにも参加する大御所ギタリスト)と仕事するときは、僕は松原さんの自宅にUSBメモリーを持って行くだけなんです。松原さんも自分でオペレートして演奏して録音して、僕はそのデータの入ったUSBを持って帰るというだけでレコーディングが成立します。住まいが遠方のミュージシャンの場合は、Web上のやり取りのみでレコーディングが成立する事も多いです」

このドアの向こうがレコーディングスタジオ

ここで、作曲から、レコーディング、ミックスダウン、マスタリングまでのすべてに作業が行われている

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