日本の英語教育の現場で忘れ去られていること

もう春だというのにとてつもなく寒くその上雨、まるで冬に逆戻りしてしまったのかと思わせるような、そんな日に今回の主役である、米Rosetta StoneのCEO、トム・アダムス氏に面会するため、渋谷区にあるロゼッタストーン・ジャパン本社にお邪魔した。

PROFILE : トム・アダムス氏
1972年4月25日 スウェーデン生まれ。フランス・英国で育つ。英国ブリストル大学にて歴史学専攻、学士号取得。INSEAD(欧州経営大学院)にて経営学修士(MBA)取 得。ロゼッタストーン入社以前は、Trafigura社(石油や金属製品などを売買するグローバル企業)にて、中国をはじめ世界各地の販売パートナーとのネットワーク拡充に貢献。
2003年にロゼッタストーンのCEOとして入社。以来、『ロゼッタストーン』を世界有数の語学学習関連企業に成長させ、2009年4月にはニューヨーク証券取引所への上場を果たした。「The American Business Awards」の経営者部門における「Executive of the Year 2009」を受賞。さらに「Ernst & Young Entrepreneur Of The Year 2009」を全米総合部門および小売・消費財部門にて受賞し、経営者としての功績が顕彰されている。

トム・アダムス氏はスウェーデン語、英語、フランス語を流暢に操り、スペイン語はビジネスレベル。その他、基礎レベルの中国語を話す。現在では、ロシア語を学習中であり、名実ともに"語学学習のプロ"と言えるアダムス氏に「なぜ日本人は英語が苦手なのか」と、日本人にとっては永久の課題とも言えるこの質問をぶつけるのが目的である。ストレートに質問を投げかけた我々に対し、アダムス氏がまず語り始めたことは日本人の優秀さだった。

電子機器やコンピュータをはじめ、多面で世界のトップにある日本を支えている我々は優秀であり、決して無能ということではない。英語を学べないのはaptitude(能力、適正)ではなくmethod(方法)に問題があるからだと言う。

アダムス氏曰く、日本の学校での英語の授業を見学に行ったときのことを例に氏が指摘した日本においての英語学習法の問題点は、

・英語の授業なのにそのほとんどが日本語で行われている

・訳が重視されすぎている

・listeningとspeakingの機会が少なすぎる

の3つ。

誰もが生まれ育った国の言葉を覚えるときは聞くことから始まり、聞き覚えたことを今度は発話してみるといった作業になる。その際、目と耳から入ってくる情報も加え、単語の意味、文節の意味、そして文章としての意味と徐々に理解していくのだが、残念ながら日本での英語教育の現場ではそういったことが忘れ去られているとアダムス氏は指摘する。

それに日本人の多くは単語数や文法とも、ある程度の知識は持ちながらもその知識が使えない、使い方を知らない。これこそが日本人が英語を苦手と感じる最大の原因だと語る。

生まれたての状態なら、人種ごとに英語学習方法を変える必要はなし!?

人種によって英語の勉強法は変わるべきか否か―? 次にぶつけた質問は、たとえば同じアジア人でも国によって使う言葉は大きく異なる。そんな異なる環境に育つものが英語を学ぶときの方法は異なってしかりか、それとも同じでよいのか。

この質問への回答はとても簡単明瞭だった。大人として覚えるなら学習法は変わるべき。ただしnew born(生まれたて)の状態を再現することで学習できるなら、どの国の人であろうと学習法は同じであるべきで、これこそがベストな学習法だと言う。

さらにアダムス氏は、脳の仕組にまで踏み込み、日本人が日本語脳に頼るかたちで英語を覚えるなら日本人固有の学習法も必要だろうが、新たに英語専用の脳を育てるといったことでなら日本人であれ、中国人、韓国人であれ方法は同じであるべきだと明言する。