Amazon.comのKindleやApple iPadで注目を集めつつある電子書籍だが、米出版社協会(AAP)のデータによれば米国における2009年の同市場は176%の成長、つまり前年比で2.8倍の規模に急拡大したという。一方、その中核となっている電子書籍記述フォーマットの1つ「EPUB」は、iPadを含む多くのデバイスで採用されているものの、近年盛り上がりつつあるリッチメディア/国際化/アクセシビリティへの対応などが不十分との指摘も増えている。そうした声を受け、米業界団体の国際電子出版フォーラム(IDPF/International Digital Publishing Forum)では、現行のEPUB 2.0.1を拡張した「EPUB 2.1」仕様の策定へと乗り出している。
「KindleとiPadを比較したとき、より多くのメディアが参入に興味を示すのはiPadのほうだ」と指摘するのは、米News Corp.のRupert Murdoch氏だ。同氏はモノクロで静的コンテンツの閲覧が中心のKindleに比べ、動画やインタラクティブコンテンツなどもサポートし、よりリッチな体験ができるiPad、そして今後登場することになるタブレット製品のほうが有利だという持論を展開している。
こうした意見はすでに一部現実のものとなっており、米New York Timesはビデオ再生/クロスワードなどのインタラクティブ系コンテンツも含んだPC/iPad向けの専用リーダーソフト「New York Times Reader」を提供している。また雑誌出版社大手のConde Nastは、ファッション誌「Vogue」において、動画と写真集を組み合わせた新しい記事配信の仕組みを用意している。
だがこうしたコンテンツの数々は、電子出版とはいっても電子書籍用記述フォーマットを用いているのではなく、iPadであれば専用のアプリ上で構築され、PC向け配信であればAdobe AIRやFlashなどを採用している。その理由は、EPUB自身にこうしたリッチコンテンツを記述する方法が用意されていないことに起因する。英出版大手Penguin Books CEOのJohn Makinson氏は、同社がよりリッチな電子出版の研究開発を進めていることを明らかにしており、その中でEPUBの表現能力の弱さを指摘している。