Flashに関するアピールという点に関しては、今回のリリースとは直接関係ないが、やはりどうしてもHTML5のことが気になってしまう。世間では"Flash vs. HTML5"のような構図で語られるケースが多く見られるものの、Adobe自身がHTML5を敵視したり極端に恐れているという事実はない。同社にとってFlashとHTML5は両方ともサポートすべき対象だと考えていることは、これまでの関係者の発言からも明らかである。

せっかくの機会なので、このFlash vs. HTML5という構図について、シニアデベロッパーマーケティングマネージャーであるPotter氏はどう考えているのか聞いてみた。

「その構図が大きな誤解であるという指摘は、まさしくその通りです。我々としては、両者が一緒に動作するものだということを実際に見せていく必要があると考えています。たとえば『Google Finance』のサイトを見てください。FlashとHTML5を、それぞれの長所を生かす形でうまく組み合わせて利用していることがわかります。どちらか一方ではなく、2つを一緒に使うことでよりいい体験が実現できるということを声高していかなければならないと思います」

つまりAdobeでは、HTML5もリッチなWeb体験を実現するための重要な選択肢に数えているということだ。しかし、Potter氏は次のようにも続けている。

「もうひとつ重要なことがあります。それはHTML5はあくまでもまだ仕様の段階だということです。実際に実装が進んできたら、ブラウザごとの違いが出てくる可能性が十分にあります。もしそうなった場合には、一貫したサポートを行っているFlashが際立ってくるでしょう。また、Flashの革新は非常に早く、起きたイノベーションが急速に普及するという特徴もあります。たとえばHTML5で実現されるビデオ配信は、Flashでは2002年の時点ですでにサポートしているんです。新しいフィーチャーをいち早く使いたいデザイナや技術者にとってはFlashを使うメリットが大きいと思います」

Adobe自身もHTML5の策定を積極的に推進している企業のひとつであることはたしかだ。それゆえにHTML5の現状に対する不満を強く感じる一方で、Flashに対して持っている自信がFlashを持ち上げる発言へとつながり、Adobeに対する誤解へとつながっているのではないだろうか。

いずれにせよ、Webの革新のために同社が果たす役割は大きく、Flex 4やFlash Builder 4のリリースもその一環にある。両製品は、日本時間では4月12日より提供が開始される予定となっている。また、今回はそれ以外にもAdobe ColudFusionに対応したアプリケーションの開発を効率化する「ColdFusion Builder」や、Flash Platform ServicesへのSocialサービスの追加などが発表されている。価格などについてはこちらの記事を参照していただきたい。

今回初来日となったカナダ出身のPotter氏は、Mozilla Calendarの創設にも関与したことがあるRIAのスペシャリスト。Flash/Flexの開発者向けマーケティングのリーダーとして、日本のコミュニティとの交流がもてたことは大きな収穫だったようだ。もっとも、取材は3月末に東京のアドビ本社で行われたが、真冬並みの寒気到来に「カナダより寒い」と少々閉口ぎみ……