味噌、納豆、醤油……。日本の家庭の食卓に日常的に上がっているこれらの食品は大豆を発酵させてつくられる発酵食品である。おいしい上に栄養的にも優れている日本が誇る発酵食品といっていいだろう。一方、欧米における発酵食品の代表格はなんといってもチーズ。牛やヤギ、羊などの生乳を原料とするこの発酵食品は今や世界中でつくられ、食されている。一口にチーズといっても様々なタイプがあることは既に読者の皆さんもよくご存知のことと思うが、一昔前の日本のチーズといえば、三角形のアレやスティック状のアレ……。乳に加熱処理を施してつくられる、いわゆるプロセスチーズしかなかった。

日本のチーズ史を一変させた「フェルミエ」

フェルミエ代表・本間るみ子氏

1986年3月に開業したチーズ専門店「フェルミエ」は、そんな日本におけるチーズの歴史の塗り替えに一役も二役も買った立役者である。加熱処理をするプロセスチーズに対して非加熱のナチュラルチーズ(ただし、今回紹介するパルミジャーノ・レッジャーノのようなハードタイプのチーズなど、製造工程中に加熱されるものもある)。このナチュラルチーズを専門に扱う日本で最初のショップとなったのだ。今ではスーパーでも普通に見かけるカマンベールやモッツァレラチーズであるが、フェルミエは大量生産でつくられるチーズは扱わず、常に造り手の顔が見える(今でこそトレーサビリティという言葉はあるが)チーズしか扱わない。なにしろ、「フェルミエ=農家製」(フランス語)の意味なのだから。

さて、話を発酵に戻すと、発酵した食品にさらに時間を重ねると旨みが増し、香りも芳醇になることがある。それを"熟成"と呼び、人は貴びありがたがって食するのである。東京都内でこのほど、フェルミエのオープン24周年記念を記念して開かれたのは、その"熟成"を堪能するべく、パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ、パルマハム、ポートワインに注目したセミナー&ディナー。フェルミエ会員60名が出席して行われた。ちなみに同イベントは、パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ協会(イタリア)、パルマハム協会(イタリア)、ポート&ドウロワイン・インスティチュート(ポルトガル)が2008年から3年間の予定で実施している「おいしい伝統 熟成ヨーロッパ」キャンペーンの一環である。

単に食べて飲むだけでなくきちんとお勉強もするのがフェルミエ流なのだが、せっかくのディナーにノートに鉛筆ではあまりに色気がない。そこはばっちりショーで魅せてくれました。

イベントの様子

まずはフェルミエスタッフであるファビアン・デグレ氏によるパルミジャーノ・レッジャーノ・チーズのホール・カッティング・ショー。パルミジャーノ・レッジャーノとは、イタリアのパルマ地方とレッジョ・エミリア地方周辺で伝統的につくられているハードタイプのチーズのこと。昔から日本ではパルメザンチーズという名の粉チーズが売られているが、スーパーなどでよく見かける円筒状をした大方の製品は、この本物のパルミジャーノをおろしたものではなく、名だけがこのパルミジャーノに由来している。

しかし、こちらは本物である。40kgもあるパルミジャーノ・チーズを半分に(最終的には今回は1/4にまで)かち割る作業。マグロの解体ショーならぬチーズの解体(?)ショーだ。「ただチーズを半分に切るだけでしょ? 」と侮ることなかれ。通常こういったショーを開催するときには、熟成24カ月のパルミジャーノが使われるのだが、今回用意されたのはなんと3年もの。

3年もののパルミジャーノのカッティング・ショー。熟成している分チーズは硬く、カットするのもひと苦労

その分、水分も蒸発して(つまり熟成して)チーズは硬くなる。これにナイフを入れるのは相当な力と技が必要なのだ。まず、チーズのど真ん中にナイフを突き刺す。そこから、先が鍵状になった別のナイフでぐるりと一周させる。これは7mmもある硬い皮を剥く作業。ファビアンの顔がみるみるうちに真っ赤にになっていく。「エイッ! 」と最後の一刺しでチーズは真っ二つ。お見事!! 観ているこちらも手に汗握ってしまった。ちなみにイタリアでは、チーズを切ることを"開ける(aprire=アプリーレ)"というらしく、まさに"チーズ開き"である。なんとも縁起がいい。