Schmidt氏が2009年夏にAppleのボードメンバーを離れて以降、両社のバトルはよりあからさまでヒートアップするようになった。典型的なのは2009年11月の米Googleによるモバイル広告会社AdMobの買収だ。
AdMob、Quattro Wireless買収のいきさつ
当初、AdMobにモーションをかけていたのはAppleのほうだった。Apple自身がiPhone向けに急成長中のモバイル広告ビジネスを展開するのが目的で、6億ドルでの買収オファーを行っていたという。こうした買収交渉の中、AdMobがApple以外の企業への身売りをしないよう、45日間の売却凍結契約を結んでいたという。だがこの45日契約を狙い打ちするようにGoogleが奇襲をかけたというのが、同件に関わった3人の人物の証言でわかっている。
このAppleの広告事業進出を嫌がるSchmidt氏は、Page氏やBrin氏など他のGoogle幹部らを率い、AdMobのCEOであるOmar Hamoui氏に対して熱心にアプローチをかけたという。Hamoui氏もAppleより広告業界で実績のあるGoogleのほうに興味を持っており、Appleの提示した買収額よりさらに25%プレミアを乗せた提案額と、Appleの条件よりさらに現金化の期間が短いストックオプションという好条件を提示されたこともあり、最終的にGoogleを選ぶこととなった。そして45日縛りが解けて3日後、Googleは7億5,000万ドルでのAdMobの買収を正式発表した。
この買収は現在FTCの審査途上にあり、関係者はすべてノーコメントを貫いている。Jobs氏はAdMobが契約違反を犯していると訴えており、Googleがそれを手引きしたと主張している。ではGoogleがAdMob買収で何を得たかといえば、7億5,000万ドルと引き替えにライバルの手からAdMobを引き離したことにあるといわれている。Googleの買収戦略に詳しいある幹部によれば「Googleが7億5,000万ドルを回収するつもりかって? そんなわけないだろ」ということだ。
AppleもGoogleへの対抗を狙ったのか、後に同業のモバイル広告会社である米Quattro Wirelessを2億7500万ドルで買収したという情報が伝わってきた(「米Appleが携帯向け広告企業買収を発表か - GoogleのAdMob買収に対抗」)。だが偶然か皮肉かはわからないが、Quattro Wireless買収の話が出た2010年1月5日には、Google謹製のAndroid端末「Nexus One」が発表されており、世間の注目はほとんどNexus Oneに集まっていた(「Google、"スーパーフォン"「Nexus One」発表 - 直販ストアを開設」)。
米Lala Media、「reMail for Gmail」「Google Voice」
モバイル広告の話を離れると、米Appleが2009年12月に買収を発表した米Lala Mediaの話題が浮かんでくる(「米Apple、ストリーミングサービスで急成長中の米Lala買収へ」)。Lalaはクラウド版音楽配信サービスともいえるものだが、このLalaに当初興味を持っていたのはGoogleだといわれ、Apple以前に買収交渉を行っていたという話が伝わっている。
また、Googleが今年2月に買収した「reMail for Gmail」はApp Storeで人気のiPhoneアプリであり、その目的はreMailの持つオフラインメーラ技術もさることながら、人気アプリを奪うことでAppleへの嫌がらせを狙っていたという話もある(「Google、iPhone用の人気メールアプリ「reMail」を獲得」「Google買収のiPhone用メールアプリ「reMail」、Apacheライセンスでオープンソース化」)。
一方で、「Google Voice」のApp Storeへの登録をAppleが拒否したりと、この争いではパートナーである米AT&Tや米国政府をも巻き込んだ一大論争へと発展した(「Apple、"Google Voice"アプリ問題でFCCに回答 - 承認拒否を否定」「紆余曲折を経てGoogle VoiceがiPhoneに登場」)。