iPhone OSデバイス向けアプリを提供するために開発者が必ず同意しなければならないライセンス契約「iPhone Developer Program License Agreement」。「セカイカメラ」などPlaceEngineを利用したiPhoneアプリが突然App Storeから姿を消したことが問題になったばかりだが、こうした理不尽と思えるようなことが起こるのも、この契約が存在するためと言われる。では、その内容はどのようなものなのだろうか?

iPhoneアプリ開発者のライセンス契約には合意内容の公表を禁じる条項が含まれており、これまで開発者コミュニティの外で、その内容が議論されることは少なかった。が、Electronic Frontier Foundation (EEF)が9日(米国時間)に「開発したアプリはすべてAppleに奪われる」と題したレポートを発表。独自に入手した契約書を同団体のWebで公開したことで、同契約に関する議論が広がっている。またタイミングよく10日(同)にGame Developers Conference(GDC)において、Vernon Law GroupのMark Methenitis氏が「iPhone契約: 何を読み取るべきか」という講演を行った。

「Appleに好都合で、あまりにも一方的」と批判

iPhoneアプリ開発者が合意する文書を公開したEFFは、デジタル機器やインターネットの利用における消費者の権利のために活動する非営利組織だ。NASAがiPhoneアプリを提供していることから、Freedom of Information Act (米国政府に対し非公開情報の開示を容認する)に従ってiPhoneアプリ開発者の契約書の提供を同局に依頼。入手した2009年3月版のコピーを9日に公開した。現在(3月10日)は、さらに新しい2010年1月版が公開されている。

上記のiPhoneアプリ開発者に対して合意内容の公開を禁じた「Section 10.4」のほか、EFFは以下の5つを問題視している。

  • App Store以外でのアプリの配信禁止(Section 7.2): iPhone SDKを用いて開発されたアプリケーションの配信をApp Storeに限定し、またAppleが配信を拒否する権利を有する。これはAppleが公開しているApp Storeでの配信条件を満たしている場合でも拒否される可能性がある。

  • リバースエンジニアリングの禁止(Section 2.6): 製品を分解するなどして、その仕様や要素技術などを調べるリバースエンジニアリング。容認されればセキュリティ上の問題につながる可能性があるが、この条項では著作権法で認められている相互運用のためのリバースエンジニアリングも禁じられている。

  • Apple製品の改変禁止(Section 3.2): Jailbreaking対策の条項と考えられるが、iPhoneのみならず、全てのAppleソフトウエアおよび技術について改変するような行為が違反となる可能性がある。例えば、iPhoneアプリ開発者がオープンソース・ソフトウエアをiPodに対応させるような行為も違反になり得る。

  • アプリの無効化(Section 8): いかなるときでもAppleがアプリのデジタル証明書を無効化できる。これはユーザーがインストールしたアプリについても遠隔操作で無効化できることを意味する。

  • 賠償は50ドルまで(Section 14): 開発者に対するAppleからの賠償は50ドルが上限。例えばApple側の過失で開発者のアプリが無効化されたり、データ漏洩のようなことが起きて開発者が多大な損害を被ったとしても、Appleからは50ドルまでしか回収できない。

EFFは、この契約を「全てにおいてAppleに好都合で、あまりにも一方的」と批判している。ただEFFのFred von Lohmann氏は契約の内容以上に、「(この内容で)多くの大企業を含む100,000以上の開発者がiPhone市場に参入しているという事実に少々驚いている」と述べる。このような状況に警鐘を鳴らしたのがMethenitis氏の講演だ。