ひたすらぶざまに青春をあがく男を描いた花沢健吾の人気コミックを映画化した『ボーイズ・オン・ザ・ラン』が公開中だ。主人公の不器用でまっすぐな男・田西を演じるのは、俳優としても評価の高い銀杏BOYZの峯田和伸。監督は、リアルにこだわった"セミドキュメント"と呼ばれる手法で人間の本質をえぐり出し、演劇界に衝撃を与え続ける劇団「ポツドール」を主宰する三浦大輔。強い個性がタッグを組んだ本作の見どころを2人に聞いた。

左から、三浦大輔監督、主演の峯田和伸

――コミックの映画化にあたって気をつけたことは?

三浦 : 「原作に出てくるどのエピソードもおもしろいので、2時間の映画として作るにあたってどれを省略するかは悩みました。2時間でお客さんを田西の感情に乗せられるように、どれを抜くのか慎重に選びながら作りましたね。僕の劇団はオリジナルをやっているので、原作をアレンジする作業はいつもとは違いますが、僕のやってきた舞台と花沢さんの作品の世界観に通じる部分があって、共感できたからやれたというところはあると思います」

――峯田さんは以前から原作のファンだったそうですね。

峯田 : 「雑誌に連載されているときから原作が好きで、映画化はして欲しくないと思ってました。でも、三浦くんが監督をやるというので、ぜひやらせてくださいと」

――峯田さんが演じられている田西は、まるで生身の峯田さんそのままを映したようにリアルですね

峯田 : 「田西はもちろん僕自身ではないけど、かといって原作そのままの田西でもない。僕と監督が生んだ第三者のような、原作とも峯田とも違う男のような気がします」

三浦 : 「ある程度、リハーサルをやって撮影に臨んだんですけど、実際に峯田くんが現場で演じてみて、セリフに気持ちが乗らないところも出てきて。そのたびに話し合って、感情を持って行きやすいようその場でセリフを変える演出方法をとりました。峯田くんが自分の感情に嘘をついて田西のキャラクターに寄せちゃうことが一番嫌だったので」

峯田 : 「僕の感じでまず監督の前でやってみるんです。それに対してもっとこうした方がいいんじゃないかって指示は、監督からまったく来なかったですね。セリフを変えた時点で自分らしくできたというか」

三浦 : 「どれが演技なのか素なのかというせめぎ合いが一番おもしろいと思うんですよね。峯田くんだか田西だかわからない状態。そういう緊張感を持ちながら演技を続けて欲しかったんです」

『ボーイズ・オン・ザ・ラン』ストーリー

田西(峯田和伸)は小さな玩具メーカーに勤める29歳。未だ女性とつき合ったこともなく、実家でエロビデオ三昧の日々を送る中、同僚のちはる(黒川芽以)に思いを寄せていた。そんなある日、田西はライバル会社のイケメン社員・青山(松田龍平)と知り合い、彼の協力で恋は成就しかけるが、田西のある行動がきっかけでちはるに嫌われてしまうことに。絶望する田西は、やがて衝撃の事実を知り…。

――田西が感情を爆発させるように、岡村孝子さんの『夢をあきらめないで』を泣き崩れながら絶唱するシーンは胸に迫るものがあります

峯田 : 「田西ならこう歌うだろうとかいう演技ではなく、僕はあんなふうにしか歌えなかったですね。ちょっと前に実家に帰って友だちとカラオケに行ったとき、フラれたばっかりの友だちがヤケ酒飲んで、このうえない絶唱をしているのを見て、"魂"ってものがあるとするならこういうものだと。うまく歌おうとかいう念は一切なく、絶唱するしかないという……。自分のバンドにもそういう部分はあるので、刺激を受けましたね」……続きを読む